4本目くらいだったかな。
多分20分くらい経った頃だ。

「社長じゃないの?」

なんだかあいつの声を久しぶりに聞いた気がする。

「何のこと?」

つまり、聞いてみると、こういうことだった。

おれとあいつは、おれのビル、
正確にはおれのビルだったビル。
さらに言えば、おれの叔父のビルのレストランに、
たまに飯を食いに行った。

ちょっとの間だけど社長をしてたし、
今も一応役員だから、
会社直営のその店では、
店員もおれを特別扱い。
会計なんてしたことが無かった。

いつも一番いい席に座って、
一番いい料理をオーダーしていた。

で、そこにあいつは今日行ったらしい。
大切な友だちと一緒に。

残念なことに、今日は満席だった。
でも、友だちに何か言ってたんだろうな。
そこであいつは引き下がらなかった。

「私、こちらの社長とお付き合いしている者ですが」

でもな、あいつに言っておきゃ良かった。
おれがどうしてあの店に、
週末行くことが無かったのか。

「私はあなたを存じませんが」

案の定、週末はいつも叔父がいるんだよな。
何も叔父に直接言わなくても。
そして食い下がるのだけはやめてくれ。

「いや、確かに私の彼がこの店の社長のはずよ」

「それは違いますね。私ですから」

そのとき、あいつはどう思っただろう。
どんな顔をしたんだろう。

「あなた、だまされていたんですよ。
あの子はたしかにこの会社の
元社長の血筋ですが、
今は社長ではありません。
あなたも、お友だちも、
お引取りください」