暗闇は一層深くなり、往路は光の数も随分と減っている。

この町でまだ目を開けている人はどれくらいいるだろう。

起きているのが私たち二人だけだったらいいな。

まるで世界に二人だけしか存在していないみたいな気持ちになる。

もう午前二時近いというのにちっとも眠たくなかった。

「こんな遅い時間までありがとうございました」

「うん、僕は大丈夫だけど、君は明日の仕事に支障でないように気を付けて」

「私の場合、自業自得ですから」

彼は「そっか」と言って口元を緩めた。

次第に見慣れた景色が車窓を流れていく。

このままうちに着かなければいいのに。

間宮さんが道に迷ってくれたらいいのに。

だけど、彼はさっき来た道を正確に覚えていて、すぐにうちに到着してしまった。

「封筒は車の中に置いておいて」

車から降りようとした私に彼はそう言った。

この期に及んで、まだしっかりと封筒を胸に抱いていた私に。

「はい。よろしくお願いします」

私はそう言うと、封筒を座席に残し車を降りた。

扉を閉めると同時に窓ガラスがスーッと開き、間宮さんが少し意地悪な顔で笑ったまま言った。

「また困ったことがあったらいつでもご利用下さい」

「すみません」

私はぺこりと頭を下げる。

「じゃ、また」

車は静かに発進し、暗闇に消えていった。

じゃ、また……なんてきっとないよね。

三度目の正直。

せっかくくれた神様からの三度目の再会だったけれど、何の一歩も踏み出せないまま終わってしまった。

せめて、あの公園にいたきれいな女性が間宮さんにとってどういう人だったのかくらい聞けばよかった。

聞くだけ野暮かもしれないけど。