初めての痛みも、彼の優しい眼差しと声がそこにあったから怖くなかった。

彼でよかった。

時折大きな波が私たちの甘い時間を揺らす。

何度もキスを交わした。

この時間が終わらなければいいのにって思うくらい幸せな時間。

大好きな人に抱かれるって、小説や映画なんかよりもずっと素敵で愛おしくて満たされた気持ちになる。

こんな気持ちになれたのもきっと樹さんだから。

樹さんが愛してくれたから。

窓の外から眩しいオレンジの光が差し込み彼の背中を照らした。

少しうとうとしていた彼が眠そうな目を開く。

「ん、そろそろ日没?」

「そうみたいです」

「凛に見せたかったんだ、ここから見る夕日」

ベッドに向かい合って寝そべる彼の腕が私の肩から背中に回り、そのまま引き寄せられ額に彼の唇が触れる。

「見せたいのは朝日じゃなくて夕日なんですね」

彼の胸に手を当てて、少しだけからかうように尋ねた。

「まぁね。僕は朝日より夕日が好きなんだ」

「どうしてですか?」

「夕日の終わりがあるから始まりがあるって感じ。切ないけれど明日に続くっていうあのオレンジの光に活力をもらうんだ」

「朝日は?」

「終わりを感じさせない明るさに一瞬騙されたような気分になる」

「樹さんって、意外と素直じゃないんですね」


「凛に言われたくないな、でも」

そう言うと笑いながら私を抱きしめた。

「君が何を言おうと何をしようと僕は凛を愛してる」