樹さんは、自分の思いを着々と実現させていく。

その実現力は本当にすごいと思う。
そんな彼を間近で見ていたら自分もできるように思えてくるから不思議だ。

私も負けてはいられない。来年の春、必ずトリマーの資格を取らなくちゃ。

忙しい毎日を必死にこなしていたら、いつの間にか夏が過ぎ、秋の気配を感じる季節になっていた。

仕事帰り、いつものように学校に行く前にぷーすけの世話をするため彼の家に寄る。

玄関を開けると、男性の革靴が並べてあった。

あれ?珍しく樹さんが帰ってるのかな?

いつも遅くまで仕事をしている樹さんだから、ぷーすけの世話で寄った時に会うことはほとんどなかった。

でも、たまに帰っているところに遭遇すると嫌でも胸が高鳴る。

「樹さん?」

速足で明かりの灯るリビングに向かうと、誰かの後ろ姿が見えた。

白いワイシャツにグレーのパンツスタイルの彼が驚いた顔でこちらを振り返る。

その顔は樹さんではなかった。

「だ、だれですか?」

さっきまでの喜びの高鳴りとは違う不安感のドキドキが私を支配し、一歩後づ去りする。

部屋の片隅にいたぷーすけが私の足元に駆け寄ってきたのですぐに抱き上げた。

見たことのないその彼が細い目をますます細くしてにこっと笑う。

「初めまして、あなたが樹さんの彼女?」

年は私と変わらないくらいだろうか。もしくは私よりも少し若いかもしれない。

明るい茶髪の髪は天然なのか軽くウェ-ブがかかっていて細い目元のぎりぎりまで前髪が下りていた。

人懐っこい笑顔と、私の存在を知っていることにほんの少しだけ安心して頷く。