「不安、よりも……いろいろ思い出しちゃって。もう大丈夫だと思ってきてたんだけど、急にあの日々に戻るんじゃないかって、すごく怖いの」

微かに震える手を重ねる那月に手を伸ばしかける。

「俺が……」

守るから大丈夫、その言葉があと一歩のところで詰まって出てこない。

那月の不安や恐怖はそんな言葉で消えない。

もっと何か……

「……俺が、戻らせない。あんな日々には、どんな理由があっても、絶対」

そっと腕を広げる。

「ほら、最初の頃みたいに」

そう言うと、那月は静かに距離を詰めて、そっと俺の胸板に頭をつけた。

ぐすっ……と、すすり泣きが聞こえてくる。

「俺は辛いことの後に良いことがあったよ。だから思い出すのは、そっちだ。昔の嫌なことが頭を過ぎったとき、ちょっと先にあった大切な思い出に耽るようにしてる」

落ち着かせるように那月の頭を撫でて、話を続けた。

「例えば、誰かさんが今よりもっと情緒不安定で手が掛かって大変だったな、とか。夜に目を覚ましてはこうやって泣いて、落ち着いたら寝ちゃって起きなくてさ」