-揺れる想い-


「はるー、はるかーー、ただいまー」

2LDKの賃貸物件に帰宅してすぐ、気怠く同居人の名前を連呼した。

リビングから、短い黒髪に端正な顔立ちで長身の同居人、悠が歩いてくる。

私より九つ年上の彼が、今日は珍しく黒縁眼鏡を掛けていた。

「おかえり。どうした?何かあったのか?大丈夫か?」

これはいつもと同じ。

綺麗な顔を心配そうに歪めて、見つめられる。

「何もなかったよ!いつも通り」

にこっと笑って背の高い悠を見上げた。

「そうか……良かった。疲れたか?」

「ちょっとだけ。私が人前で演じちゃうのがね……」

なかなか治らない癖だ。

悠と出会うまでの生き方が原因なのは明らかで。

駄目だなって反省すると、過去を思い出しそうになるのが辛い。

「那月」

「何……わっ」

急に頭を撫でられて、目を閉じた。

「お疲れ様」