僕等の、赤。


 「はぁ⁉ 神様とやらに何を聞いてきたのよ。『直近で妊娠予定』って、彼氏もいないのにどうやって身籠るのよ。子どもの作り方、知らないのかよ。相手は誰だっつーの‼」

 「経理の唐沢さん」

 「いい加減にしてよ」

 蒼ちゃんの口から出た忌々しい名前に虫唾が走り、コーヒーを吸いまくったティッシュを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。

 経理の唐沢とは、東京本社の経理部で、6歳下の男だ。私がいる事務所は、社員はそう多くないが、下請けや単発バイトが多く、出張旅費や時間外勤務の給料の計算が、月末月初に膨大な人数分やってくる。私一人で捌き切れない為、毎月唐沢がヘルプにやってくるのだが……まぁ、本当に嫌な奴なのだ。別にそんなにチンタラ仕事をしているわけでもないのに『ババアだから仕事が遅い』と罵られ、仕事中にちょっとお菓子を摘まめば『消費出来ない代謝の悪いババアのくせに、よく食うわ』と嘲われ、やたら悪口を言われるのだ。

 毎月、唐沢がくる前日は気が滅入っている私の耳に、【唐沢】などという名前を入れてくれるなとイラつく。