教室に入ると、ジェニファーがアンバーのグループの中でおしゃべりしている。

 アンバーとは顔を合わせたくないが、ジェニファーがいる以上、そこへ足を向けるしかなかった。

「おはよう」

 弱々しくも笑顔で接触するが、返事を返してくれるものは誰もいなかった。

 親友のジェニファーですら声を発さない。

 自分が混じったことで周りがわざとらしく静かになったことが、排除すべき存在のように、あからさまに矢を向けられた敵意を感じた。

 気まずくまごまごしている間にジェニファーがベアトリスを無視して、そのグループの輪から離れていった。

「ジェニファー?」

 ベアトリスは後を追いかけた。

 後ろでアンバーとその周りの女子達が、クスクスと意地悪く笑う声が耳についた。

「ジェニファーちょっと待って。どうしたの」

 ジェニファーが立ち止まった。

 後ろを振り返ろうとしたのか首が少し動いたが、抱いている気持ちがそれ以上動かないように押さえつけている。

 顔を見ないことで、ジェニファーの怒りは本物であるとベアトリスに確実に伝わった。

 後ろ向きのままに会話を進めるジェニファーの冷たさ、そして押し殺した冷静な声がベアトリスを凍らせた。

「ごめん、少し距離を置きたいんだ。訳はあなたが一番よく知ってるでしょ」

 それだけ言うのが精一杯で、それ以上を言うと見苦しいとばかりにジェニファーはベアトリスから離れていった。

 わざとらしく見せ付けるように、前方にいた他の友達に声をかけ、その後は完全に無視が続いた。

 ベアトリスには心当たりがもちろんあった。

 そうされるだけのことをして、そして自分自身もそれでも構わないと覚悟を決めヴィンセントに思いを伝えようとしたこともちゃんと覚えている。

 それ以上、何も言えず、無言で自分の席に戻っていくしかなかった。