「えっ、髪が輝いてる。なぜ? これは子供の頃の時と同じ色。嘘…… でもどうしてアメリアは何も言わなかったの? こんなに色が違うのに。そう言えばあの物置部屋の鏡を見たときも違和感があった。それでもヴィンセントも何も言わなかった。どうして?」

 暫く呆然と髪を見ていた。

「私どうしちゃったんだろう」

 夢と現実の区別がつかなくなるほどの心の病に侵されたのかと、自分を病人扱いした目で眺めてしまった。

 自分の目でしっかりと見ているのに、周りのものが何も言わないということはやっぱり自分だけにしか見えないということだろうか。

 妄想に取り付かれると、幻影を見たり、幻聴したりしてしまいやすい。

「とにかくシャワーを浴びよう。そうじゃないとここから出られそうもないし」

 ベアトリスは服を脱ぎ、バスタブの中に入った。蛇口を回し熱いお湯になるのを確認すると、シャワーレバーを上にあげる。頭から勢い良くお湯を被り、シャンプーボトルを手にした。

「あっ、いつものだ。アメリア、いつの間にか取り替えたんだ」

 ベアトリスは手にとり泡立てる。髪の色を思い出すと恐る恐る洗い出した。

 しかし自棄になってその後乱暴に洗う。

 お風呂から出たらまた元に戻ってるかもしれない。

 今までのパターンが全てそうだったと開き直ることにも目覚めていた。

 その後、鏡の前で自虐的に笑わずにはいられなかった。本当に元の色に戻っていたのである。

「やっぱり」

 妄想──。

 自分の心が作り出した幻影。

 そう考えれば数々の不思議な体験の説明がつく。

 普段から人の目を気にしすぎて、いらぬ心配ごとを抱え込む体質。

 それも妄想を作り出す原因の一つであってもおかしくない。

 本人だけが本当のことのように感じているだけだで、周りは何も見えない聞こえない。

 ベアトリスは大きくため息を吐き出す。

「それじゃ、ヴィンセントのことは? あれも妄想だというの?」

 バスタオルを纏った姿で鏡の前で自分に問いかける。

「妄想だとしても、あなたが好きで仕方ないのはヴィンセントなんでしょう」

 指を立てて自分に忠告する。抑えきれない気持ちは苦しみを増幅するだけだった。

「ヴィンセント」

 その名前を口にするだけで、心が燃え滾った。