ロッカーで自分の荷物を取ってから、駐車場に向かった。

 がらがらになった学校のただっ広い駐車場の遠くに、白い車が置き去りにされたように停まっているのが、すぐに目に付いた。

 あれがヴィンセントの父親の所有する車に違いないと、ベアトリスはすぐに思った。

 ふと前日に会ったヴィンセントの父親の顔を思い出す。

 濃いブラウン色の少しウエーブかかった短めの髪を、七三に分けきちんとした身なりだった。

 ヴィンセントに負けず劣らずのかっこいい父親ではあったが、 隙のない鋭い感覚をもった印象が瞳から感じ取れた。

 何ごとも見逃さないそんな目をしていた。

 車もまた、そんな父親にふさわしいほど、高級感が漂ってきて威厳が感じられた。

「車借りたら、お父さん困らなかったの?」

「ああ、親父は同僚の車に迎えに来てもらって仕事に行った。今日は親父が自ら乗っていけって差し出してくれたんだ……」

 ──君を送るためにね。

「ヴィンセントのお父さんは何のお仕事してるの?」

「刑事だよ」

「すごい。正義の味方なんだ」

「正義の味方か…… なんか矛盾している気もするが」

「えっ、矛盾?」

 何でもないと笑ってごまかし、ヴィンセントは車のロックを解除すると助手席のドアを開けベアトリスに「どうぞ」と手を差し出す。

 車のことはよく知らないが、革張りのシート、大きめの車体が、高そうに見える。

 緊張して車に乗り込み、シートベルトをカチャッ と差し込んだ。

 運転席にヴィンセントも座り、車のエンジンをかけながら、シートベルトを差し込んでいた。

 車を運転するヴィンセントは、とても大人びて見える。

 注意を払い真剣な面持ちの姿は、また新たに見る姿だった。新鮮さとヴィンセントの魅力が倍増して、車を運転するだけでより一層かっこよく見えた。

「さっきからじっくりと観察してくれてるけど、そんなに僕の運転に不安?」
 ヴィンセントとは違う意味に捉えてしまい、ベアトリスはあたふたとしてしまった。

「違うの、その……」

 かっこいいと正直に言うのがとても恥ずかしくてモジモジとしてしまったが、ヴィンセントにはじれったかった。

「ベアトリス、もういい加減に僕に慣れてくれないかな。僕は君が思っているようなナイスガイではないんだ。とても我は強いくせに、自分の感情を抑えられない弱い奴さ。まだまだあるけど、僕の本当の正体を知ったら、君は……」

 信号にさしかかり、そこで赤となって、ブレーキをかけて停まった。