「んん? ここは?」

 ベアトリスが目を覚ました。

 温かいクッションを背中に挟んで壁にもたれている感触があった。

 寝ぼけた頭で、前を見れば、何か違和感を覚える。足が四本もあった。

 真ん中の二本はベアトリスの足。その両端に長くすらっと伸びた末広がりの足二本。

 お腹にはシートベルトの役割のように、筋肉質の腕がベアトリスの体を抱きかかえて固定していた。

 暫くこの状況を考える。

 頭の中でどういうことになってるのか、順序だててイメージしてみれば、自分がヴィンセントと重なっていることに気がついた。

 しかもこの格好で暫く寝ていたと思うと、急激に頬が赤く染まる。

 自分の真後ろにヴィンセントがいて、しかも体が恐ろしく密着している。

 真相に気がつくと、これは落ち着けるはずがなかった。

 どうしていいか分からず、オタオタとしていると後ろも動き出した。

「ん? あっ、つい寝てしまった」

 寝起きのはっきりとしないヴィンセントの声が聞こえてきた。

「ヴィンセント! ちょっと、私何してるの。しかもあなたの上で」

「あっ、ごめん」

 ヴィンセントがベアトリスの体を支えていた腕をはずした。それと同時にベアトリスはあたふたと猫が逃げるように這い蹲い、ある程度逃げてから、くるりと向き合った。

「あの、その、えっと……」

 ベアトリスは声にならない詰まった喘ぎをしながら顔を真っ赤にしていた。

「ああ、安心して何もしてないから」

 本当はしそうだったと思い出すと、ヴィンセントは髪をかきあげ顔をそらす。

 ──何もしてないってどういうことよ。どうして私はヴィンセントと一緒にぴったりくっついて昼寝してたのよ。

 言いたくても口をパクパクするだけで声にする勇気がない。

 ヴィンセントにずっと抱かれていた、その事実を改めて受け入れてしまうと発狂しそうだった。

 寝込んでしまう前の出来事など考えている余裕など微塵もなかった。