「ヴィンセント、私、今自分じゃないような気がした。なんだろう、この感触。まだ体に残る。私どうしちゃったんだろう」

 ベアトリスは目を閉じ、消え行く光の余韻を離すまいと自分の手を胸にあて繋ぎとめようとしていた。

 そして急激に熱を奪われ寒気を感じて、足元がふらつきだした。

 それでも残った力で淡々と語り始めた。

「さっき、ヴィンセントが野獣に見えたんだ」

 ヴィンセントがドキッとして、小さく呻きをあげた。

「でもね、私それでもいいって思ったの。あなたがどんな姿をしていても私が思うヴィンセントに違いないって思えたから。そしたら不思議と落ち着いた。そし てあなたを救いたいって思ったら、体の芯から熱いものがこみ上げてきたの。でも力がみなぎって自分も燃え尽きそうだった」

 ベアトリスは宙を漂う綿毛のようにフラフラと現実と夢の狭間を彷徨っていた。

 体のパワーを使いきった後の消耗と副作用のアドレナリンが作用している。 まるで禁断の薬を体に投与したようだった。

 突然目覚めた力は、ベアトリスには刺激が強すぎて、体の許容範囲を超えてしまっていた。

 本人も手に負えない予想以上の力、しかしそれは何であるか、まだ本人も知らない。

 ベアトリスは力尽きたようにガクっと前に倒れこむ。

 ヴィンセントは慌てて受け止めた。

「ベアトリス、しっかりするんだ」

「ヴィンセント、私なんだか変なの。自分じゃないみたい。もしかしてヴィンセントが私の知らない私を呼び覚ましてくれたの。だったとしたら私は一体何者?  そしてあなたも一体誰?」

 ベアトリスは熱にうなされて意味を成さないうわごとを言っているようだった。