それとは対照的にベアトリスは萎んでしまう。

 気を遣って笑いでごまかしてくれなくてもいいと言いたげに、悲しげな瞳を向けた。

「本当なんだってば。ジェニファーくらい細かったらよかったんだけど」

「君は何かとジェニファーと比べては自己嫌悪に陥るね。ジェニファーよりも君の方がよっぽど美しいのに。さあ、おいで」

「えっ?」

 聞き間違いにちがいないと自分の耳が信じられずにいた。

 また夢を見ているのだろうか。

 思いもよらぬ事に、見るもの全てが現実のものと思えなくなってしまった。

 困惑したまま、自覚がなく事が全て運んでいく状態だった。
 
 ヴィンセントが関係者立ち入り禁止とかかれてたドアを開け、中へと入っていく。後ろから用心深くベアトリスも足を踏み入れた。

 そこは物置部屋だった。

 沢山の衣装が幾つも重なり合い、壁際のラックにぶら下がっている。

 部屋の真ん中を区切るように資料棚が置かれ色々な小道具やガラクタも置かれていた。

 そして部屋の隅にはベニヤ板や舞台作りのための木材が幾つも重なって置かれていた。

 ベアトリスは目をぱちくりしてヴィンセントを見てしまう。

 ヴィンセントもまた、驚いているベアトリスの顔を優しく見つめながら、胸の高鳴りが押さえられないのを感じていた。

「楽しくサボるにはもってこいの場所さ。ここは学校の催しで使われるものが保管されている。演劇部の衣装なんかもね」

 ベアトリスは確認するように部屋の中を見回し、目に付くものに色々と触れてみた。

「すごい。こんなに一杯色々あるんだ」

 ベアトリスが夢中になっていろんなものを手に取りながら見ていたその時、背後に人気を感じ、すぐさま振り返った。

 するとキバをむき出した恐ろしい表情のゴリラの顔がベアトリスに襲い掛かろうとしていた。

「キャー」

「おっと、そんなに怖がることはないだろう。僕だよ」

 ゴリラのかぶりものを素早く脱ぎ、ヴィンセントは参ったなと苦笑いしていた。

「ヴィンセント、やめてよ。私、またあの黒い影だと…… あっ、あの」

 ベアトリスは言いかけて、言葉を濁し目をそらす。

 自分でもどう説明していいのかわからない。

 それと同時にヴィンセントの表情も強張る。

 その後はそのことに触れたくないために、何も聞かなかったかのようにヴィンセントも慌てて弁解した。

「冗談のつもりだったんだ。ご、ごめん。あっ、あのさ、こんなのも見つけたんだ」

 話題を変えようと、ベアトリスの前に舞踏会で着るようなドレスをさしだした。