「実は恥ずかしい話なんだ。昨日火災報知器の誤作動があって、僕、あの音でパニックを起こして、それでちょっと呼吸困難に陥ってしまったんだ。それをベアトリスが助けようとしてくれたんだけど、尋常じゃない僕の姿に驚いてベアトリスも慌ててしまって、何かの拍子に躓いて転んだんだよ。その時にベアトリスも頭打ったみたいで気絶しちゃって。もう大変だったんだ。男として本当に情けない。それでベアトリスが怒ってないかなと思ってつい……」

 ベアトリスはビンセントの口から出た『真実』に驚きつつも、何も言えず、半信半疑で戸惑っていた。

 ヴィンセントは申し訳なさそうな顔を作り、ベアトリスの反応を覗こうと目が光っていた。

「えっ、そんなことがあったの? だけどそんなことで怒るわけないじゃない、ねぇ、ベアトリス」

 ジェニファーが話を振るが、ベアトリスはまだ何も言わない。

 この話が作り話だとしても、自分があの時見たと思われる出来事の方がよっぽど作り話に思える。

 怒る怒らないの次元じゃなく、言葉を組み立てられない程、頭の中はこんがらがっていた。

「ベアトリス、やっぱり怒ってる? 昨日説明しようにも、まだ気分が悪かったのと、父親が迎えにきて、恥ずかしくて君に顔向けできなかった。ほんとにごめん」

 思わずベアトリスははっとした。ヴィンセントの父親が確かに迎えに来ていた。

「ベアトリス、ヴィンセントが謝ってるのに、まだ何も言わないの?」

 ジェニファーがまどろっこしいとばかりベアトリスの背中をドンと叩いた。

 ジェニファーの嫉妬の気持ちが入り込み、崖から落とすような勢いだった。

 叩かれた勢いでベアトリスが前につんのめると、ヴィンセントに肩を受け止められる。

 最初、ベアトリスを支えようと咄嗟に肩に軽く触れた程度だったが、ベアトリスに触れるや否やヴィンセントは小さく「あっ」と感嘆した。

 何かを感じ取ると、ヴィンセントの表情が晴れやかになった。

 そして確認するかのように、ベアトリスの肩を掴む手にもっと力が入った。

 ベアトリスとまじかで目が合う。