ベアトリスは教室に入る前、自分の髪に触れた。

 しなっとしたさわり心地に安心して教室に足を踏み入れると、突然ジェニファーが飛びついてきた。

「ベアトリス!」

 ジェニファーが風邪で休みだったことをすっかり忘れてた。

「ジェニファー、もう大丈夫なの?」

 思い出したように心配の言葉を添えたが、少し目が泳いでしまう。

「うん、きっと心配してるって思ってた。もう大丈夫よ。ごめんね一人にして」

 自分がいないとヴィンセントも近づくことがなく、ベアトリスが路頭に迷うとわかっていた言葉だった。

 合わせる様にベアトリスも適当に返事を返したが、ジェニファーの事を心配していなかった事に少し罪悪感を覚えた。

「ベアトリス、なんか髪の毛がいつもと違うね」

 ジェニファーに髪のことを言われてまたドキッとしてしまい、自分の髪に手がいった。

 そこへヴィンセントが気まずそうに二人に近づいてきた。

 ベアトリスの様子を恐る恐る伺う。

 自分は風邪で休んでいたのに、それを無視してベアトリスしか見ないヴィンセントの態度にジェニファーの目つきが変わった。

 ベアトリスといえば、ヴィンセントの登場で前日のこんがらがった状況を思い出しては気まずくなっていた。

「ヴィンセント、おはよう。あら、ベアトリスばかり見て、病上がりの私のことは気にならないの?」

「えっ、あっ、そうだった。もう大丈夫なのかい?」

「あら、取ってつけたようにありがとう。ええ、すっかり元気よ。だけどベアトリスとなんかあったの?」

 ジェニファーの表情が一瞬曇るも、気を取り直してキラキラの笑顔を向けた。

 ベアトリスは何をどう言えばいいのか考えていると、ヴィンセントは用意したシナリオをジェニファーに説明しだした。