アメリアが倒れてからしっかりしなければと、何ができるかベアトリスは考える。

 まずは夕食の支度に取り掛かろうとしたが、アメリアは食欲がないと言って、水分とサプリメントを口にしただけで寝てしまった。

 ベアトリスも証拠隠滅のためにサンドイッチを食べたお蔭で、あまり空腹を感じず、この日は特別作る必要はなかった。

 それよりもバッドヘアーデーを繰り返すまいと、近所のドラッグストアでシャンプーを慌てて買いに行った。

 その後は宿題を済まして、早く就寝し、次の日のために早起きしようと心がける。

 色んなことが起こったにも関わらず、めまぐるしい変化のために自分の事を気にかけている暇がなかったくらいだった。

 時間が経てば、どんどんと記憶が曖昧になって、あやふやさが増してくる。

 それがいいことなのか悪いことなのか、しまいにはどうでもよくなるような思いだった。

 翌日、いつもより早く起きられたものの、アメリアのために朝食をどう用意してよいのか分からず、悩んだ挙句、缶詰を開けてそのままそれをお皿の上に出した。

 それをアメリアの前に持って行った時がとても恥ずかしかったが、アメリアは文句を言わなかった。

 ベアトリスは料理ができないことを改めて自覚すると、アメリアが居なかったら何もできないことにショックを感じていた。

 このままではいけない。

「学校から帰ってきたら、ちゃんと作るからね」

 本気を出せば料理の一つや二つ作れないことはない。

 料理の本もあるし、ネットでだってレシピは調べられる。

 美味しいものを作ってみたいという意欲もあった。

「気を遣わなくてもいいのよ。それよりも、あまり無茶をしないで」

「それはこっちの台詞よ。アメリアこそ無理をしないでね。できるだけ早く帰ってくるから」

 ベアトリスが部屋から出ようとしたとき、アメリアは口を開きかけたが、声を出すのを躊躇った。

 パタンとドアの閉まる音が聞こえた時は、すでに手遅れだった。

 そしてそのドアの向こうから、さらに玄関の開く音が聞こえ、またそれも閉まる気配がすると、アメリアはため息をついていた。

 このまま何も起こらずに、無事に済んでくれることを願って止まない。

 先ほど言いたかった言葉がこの時になって出てしまう。

「ヴィンセントには気をつけるのよ」

 それでも、二人が接近してしまうことは避けられないのはわかっていた。