次の日の月曜の朝、ベアトリスが起きるとパトリックの姿はどこにもなかった。

 部屋を覗けば、誰も使った形跡がないほどにきれいに整理整頓されていた。

 そしてベッドの上に一枚の紙が置かれていた。

 ベアトリスはそれを手にした。



 親愛なるベアトリス

 別れが辛くなるので、僕は何も言わずに出て行きます。
 今まで本当にありがとう。
 君の幸せをいつまでも願っているよ。

 愛を込めて、パトリック


 短いメモのような手紙だった。

 いつも前向きで、何事も諦めなかったパトリックが数行のメモだけ残して潔く何も言わずに去っていった。

 その短い言葉の中にパトリックの気持ちが凝縮されてベアトリスの胸が一杯になる。

 パトリックは新しい道を進む決心をした。

 ベアトリスへの想いを過去の想い出と変えるために。

 ベアトリスは、もう一度室内全体を見渡し、パトリックがいないことを再確認した。

 少し寂しい感じもしたが、自然と笑みがこぼれる。

 パトリックとの想い出が詰まった箱を閉じるように最後に静かにドアを閉めた。

「なんか寂しいわね。一人いないだけでこんなに静かになるなんて」

 ダイニングテーブルについていたアメリアが、コーヒーを飲みながら呟いた。

「賑やかな人だったもんね、パトリックは。今頃どの辺を車で走ってるんだろう。パトリックのことだから、夜も寝ずに、昨晩私達が寝た頃に出て行ったんだろうね」

 ベアトリスは朝食のトーストをかじり、台所を見つめながらパトリックのエプロン姿を思い出していた。