コールは消え行く命の中、横たわりヴィンセントとブラムの戦いを見ていた。

 命がけで愛するものを守る姿勢を見ていると、かすかにマーサの姿が浮かんできた。

 死を直前に気弱になり、最後の最後で何かを大切に思う気持ちに気づいたことを自分らしくないと嘲笑った。

 そして暫く一緒に過ごしたゴードンのことも脳裏によぎる。

 一人で強がっていても、何かに慕われて側で支えてくれていた有難さがこの時になって身に染みる。

 これが人生の最後に考えることなのかと死の淵でありながらおかしくなり、弱々しくも笑っていた。

 全てを覚悟して、その時を迎えるまでコールは目の前の戦いを見続ける。

 客観的に見ていたとき、ブラムの動きに不自然なところを見つけた。

 瞬間移動するとき、必ずと言っていいほど、ブラムは一度両手を合わせていたことに気づいた。

 はっとすると同時に、腹から声を絞り出して必死に伝える。

「ヴィンセント、奴の手を狙え。そいつは両手を合わせないと瞬間移動できない!」

 その声が届いたのか、ヴィンセントはブラムが瞬間移動で手を合わせないように咄嗟に破壊の力を数発連続で送り込んだ。

 それを避けようとブラムが気を取られている隙をつき、ヴィンセントはブラムの前に素早く移動し、彼の片方の手首を掴んだ。

 まじかで顔を合わせ睨み合いながら、ヴィンセントはありったけの強い力を出し切ってブラムの手首を握り潰すと、うめき声と共に鈍くボキボキと砕ける音が聞こえた。

「それで私の動きを封じ込めたつもりかね」

 ブラムは全く応えていないとヴィンセントの腹に膝で蹴りこむ。

 ヴィンセントは蹴りをまともに受け、苦しい歪んだ表情でふらつきながら後ずさった。

 その間にブラムは砕けた手首をもう片方の手で握り締めると、手首は乳白色の光に包まれて、元に戻っていった。

 その手首を動かし無駄だったとヴィンセントに見せ付ける。

「言ったはずだ。私は自分で傷を治せると。まあいいだろう。瞬間移動ばかりではまともに戦うこともできないだろうから、それは封印してやろう。それにそろそろとどめをさす頃だ」

 息を切らして激しく肩を上下にヴィンセントは動かしていた。

 この時ブラムの攻撃を受けたらひとたまりもないことをヴィンセント自身体で感じ取っていた。

 気力で立っているだけでもう攻撃する力も残っていない。

 そのとたん悔しさを滲ませてヴィンセントは元の姿に戻った。

 せめて死ぬときは人間の姿でいたいというつまらない意地だった。

「そっか覚悟を決めたということか」

 ブラムはクリスタルが幾つも隆起したような光を構えた手から発生さすと、それをヴィンセントめがけて放ちた。

 それを見ていた誰もがヴィンセントの死を予想した。

 父親であるリチャードも歯を食いしばり、我が子が目の前で殺されるのを助けることもできずにひたすら直視していた。

 ブラムの放した光はヴィンセントの体を突き抜けた。

 ヴィンセントは倒れそうになるのを必死に堪えて死に場所を求めベアトリスの元へ足を動かした。