リチャードに対する不信感からベアトリスは逃げることだけを考え、目の前に差し出されたコールが運転する車を助け舟とその時は思った。

 車に乗り込んだものの、暫く走ってから、落ち着いてよく考えれば、隣で車を運転している人物は自分の天敵であるとハッとする。

 ベアトリスは正気に戻り自分がしていることを酷く後悔しだした。

 向かいの車がすれ違う時に発せられるライトの光がポールに成りすましているコールに反射する。

 光の当たり具合で顔の凹凸の明暗が頻度に変化し、笑っているのにそれは狂気に満ちて気味が悪かった。

 ベアトリスは機嫌を伺いながら不安に問いかける。

「ポール、どこへ行くの? あの、やっぱりホテルに戻りたい」

「ベアトリスは優柔不断だ。一人で抱え込んで一人で悩んで、そして振り回されすぎて、自分で解決できずにすぐ逃げて、結局は後悔して、またスタート地点に戻る。それの繰り返し」

 コールは呟くように喋っていた。

 ベアトリスは全くその通りだと、何も言えなくなった。

「あーあ、またふさぎ込んじまった。自分がいい加減いやになるだろう。なあ、もうそういうのやめたいと思わないか?」

 痛いところをつかれてベアトリスは下を向いて黙り込んでいた。

「ほら、自分でもわかってるじゃないか。苦しいんだろ。自分のことですら信じられずにダメだと思い込んでいる。そんな自分が嫌いでたまらないんだろう。黙ってないでなんとか言えよ」

「その通りよ。何をやってもうまくいかない。自分を信じることもできない。人に頼らないと何もできない。私はダメな人間よ。だからポールも私にイライラしていじめたくなるんでしょ」

 ベアトリスはヤケクソになって叫んでしまった。

「そうだな。じれったいのはイライラさせられるけど、俺はベアトリスに興味があるんだ。だからお前を救ってやりたいなんて思ってたりするぜ。それが俺にも役に立って一石二鳥ってところなんだが」

「私を救う? どうやって」

「それは後のお楽しみ。とにかくまずは自分自身のことを良く知ってみたらどうだ?」

「私自身のことを知る?」

「ああ、知りたいと思わないか? なぜヴィンセントもお前のプロムデートも執拗にお前を追い求めるのか。お前が一体何者なのか、そして両親の事故のことや、婚約のこと、気にならないのか? 今こそ逃げないで向き合うときじゃないのか」

 ベアトリスの頭の中は混乱していた。ホテルの部屋でヴィンセントとパトリックが言い争っていたことを考えていたが、ところどころのキーワードがよくわからない。

 もう真実は一歩手前まで見えてきている。

 ベアトリスはじっと目を瞑り、体に力を込めていた。

 これ以上それから逃げられないと思うと、全てを知る覚悟をして、コールに首を向けた。

「あなたは私のことを知っているの? だったら教えて」

 ベアトリスが真剣な表情でコールを見つめると、コールは前を向いたままニヤリと口元をあげた。

「いいだろう。教えてやろう。まずはお前の正体からだ。以前話したことがあるだろう。この世の中大きく分けてどんな人間がいるかって。そしてその一番上にいる、天上人、すなわちホワイトライトのことだ。それがお前だ。そして力を与えられたもの、ディムライトが、あのパトリックという男。最後に邪悪なもの、ダークライトと呼ばれるのがヴィンセントだ」

「天上人…… それが私?」

「そうだ。お前は自分の地位を告げられずに隠されてこの世で生活している。周りがお前を守っていたのさ。心辺りはないか? 例えば特別な水を飲まされたとか」

「水! あの壷の水。あれを私も飲んでいた?」

「あれはライトソルーションと言って、お前が飲むと身を守るためにホワイトライトの力を押さえ、邪悪なダークライトから遠ざける見えないバリヤーを体に張り巡らすのさ。それがあるとダークライトはお前を感知できない。ただ近くに寄ったダークライトには攻撃力を与える。だからダークライトのヴィンセントは近寄ると体を焼かれるように苦しくてお前に近づけなっかたってことだ。心当たりあるんじゃないか」

 ベアトリスは手で顔を覆った。

 自分の仮説どおりだったと思うと涙があふれ出してくる。

「ヴィンセント……」

「ああ、アイツも苦しんでたよ。なんか今回変なこと企んでいたようだったけど、奴なりにお前と一緒に居たくて必死だったんだろうな。きっとこれが初めてのことじゃないはずだ。その前にも色々と何かを仕掛けては一緒に過ごそうとしてたんじゃないのか」

 ベアトリスは物置部屋で一緒に過ごしたことを思い出すといたたまれなくなった。

「さあ、次は何について話そうか。まだまだ知ることは一杯あるぜ」

 コールは不気味に笑いながら、あの屋敷へと向かっていた。

 自分の姿に戻ったとき、ベアトリスのライフクリスタルを手に入れることを楽しみに、チラチラと時々ベアトリスを見ながら運転していた。