その頃ベアトリスはパトリックと食事の用意をしていた。

 パトリックが全てを教えてくれる。

 その通りに動き、パトリックのすることをじっと見ていた。

「ベアトリス、それ砂糖だよ。塩はこっち」

「あっ、ごめん。私はパトリックが居ないと何もできそうもないね」

「ああ、それでいいんだ。僕は頼られるのが好きだから、僕についてくればいいんだ」

 パトリックはえへんと咳払いをわざとして、胸をはって背筋を伸ばす。

 ベアトリスはそれに合わせようと笑顔を作るが弱々しかった。

「それにしてもアメリア遅いな。仕事が急に入ったのかな」

 パトリックは腕時計を見ながら呟いた。

「パトリックがいるから、安心して仕事ができるんだよ。今までだったら、私のことが心配で定時間に終わらせようと無理してたのかもしれない。私って本当に重荷だったんだろうな。一人で何もできないんだもん」

「どうしたんだ。自信喪失みたいなこといって。ベアトリスは昔、何事にも向かって一人でなんでも解決してたんだよ。怖いもの知らずなところがあった。こっちが見ててハラハラしたぐらいだった。好奇心溢れすぎて余計なことに首突っ込んで、ベアトリスの両親も後ろからあたふたと追いかけてたっけ」

「やめて! もう過去のことはいいの。あまり覚えてないし、知りたくもない。パトリックだって過去よりも今が大切だっていったじゃない」

 過去の自分の記憶がないだけでも惨めになるときに、昔の自分と現在の情けない自分を比べられるのはベアトリスには耐えられなかった。

 その上に恐怖心を植えつけられるほどの真実が何かもわからないまま、それを知ることを放棄してまで自分を守ろうと必死になってしまう。

「ご、ごめん。でしゃばりすぎた」

「ううん、パトリックは何も悪くない。私こそ叫んでごめん」

 ベアトリスは全てを受け入れて欲しくて、パトリックに抱きついた。

 抱きつくことでまた依存しようとしていた。何もかも忘れるために。

 パトリックもしっかりと受け止めた。

 急激なベアトリスの変化だった。

 自分が仄めかした真実にベアトリスが怯えているんだと直感的に感じていた。

「ベアトリス、安心して。僕がずっと側にいるから。僕が全てのことから君を守って見せる。何も心配することはない」

「うん……」

 ベアトリスは返事をするも、目はうつろだった。

「それにしても、アメリアは遅いね」

 パトリックは話を振って、この時の雰囲気を変えようとしていた。