その一方で、ベアトリスがパトリックの手を握った光景にショック受け、ヴィンセントは家に帰っても何もする気がおきず、ベッドの上でやるせない気持ちを抱いてうつぶせに寝ていた。

 日が暮れても電気もつけなかったので、リチャードが帰宅したとき異変が起こったと勘違いされる始末だった。

 リチャードは警戒しながら家の中へ入り、辺りを調べ、ヴィンセントの部屋を確認したときだった、ベッドの上で手に血がついたヴィンセントが寝転がっているのを見ると顔を青ざめた。

「ヴィンセント、大丈夫か」

「ん? なんだ親父か。ただ寝てただけだよ。何慌ててんだよ」

「その手の傷はどうした?」

「心配ねーよ。ちょっとぶつけただけだから」

「またコールが襲撃してきたかと思った。あれから奴の動きが止まってるだけに、いつ襲ってきても不思議はない。そっちは何か変わった動きはないか。奴ならお前もターゲットにしているはずだ。ベアトリスの存在は気づかれてないだろうな」

「ああ、目立った動きはない。ベアトリスの存在がばれれば奴はすぐに襲ってくるはずだ」

「奴の行動を決め付けるのはよくない。私もそれで危ない目にあった。奴は何を企んでいるかわからない。目を光らせておいてくれ。もうすぐプロムもある。大勢集まるところで影でも仕込まれたものが紛れ込んだら大変だ」

「ああ、そうだな」

 ヴィンセントは投げやりに答えた。

「どうした。なんかあったのか」

「なんでもねーよ」

「お前、浮き沈み激しいな。どうせ原因はわかってるけどな」

 リチャードは仕方がないと同情する表情を見せ部屋を出た。

 ヴィンセントはまたそれが気に食わないと、枕を投げつけた。

 虚しくドアに当たっただけだった。