ベアトリスはパトリックと手を繋ぎながら帰り道をぼうっと歩く。

 前をしっかり見てなくとも、パトリックに引っ張られることでぶつかることもなく安全に歩くことができた。

 パトリックについていけば何も心配することはない。それがとても楽に思えた。だが表情は魂のない人形のようで感情に欠けていた。

「今朝、話したことだけど」

 パトリックは敢えてそのことに触れるが、それ以上聞きたくないとベアトリスは遮った。

「もうどうでもいい。私どうかしてたんだ。私には自分で勝手に思い込んで妄想する癖があるみたい」

 パトリックはベアトリスの変わりように、却って心配になった。

 心が閉ざされ生気がなく弱々しく感じる。

「なんかベアトリスらしくないな。だけど僕も少し反省してるんだ。君に不安を持ちかけてしまったんじゃないかって」

「ううん、そんなことない。お陰で自分がどうすべきか答えを見い出せた気がする。私にはパトリックが必要なんだって思えたから」

「えっ? 僕が必要……」

「うん。甘えちゃだめかな」

「そんなこといいに決まってるじゃないか」

 パトリックは舞い上がり嬉しさで顔がにやける。

 ベアトリスが本当に抱えている気持ちに気づくことなく、目の前の幸福で頭が一杯になっていた。

 そしてヴィンセントに勝ったと優越感に浸る。

 パトリックが喜んでいる側で、ベアトリスは手を引かれて必死に後をついていく。

 もう周りすら見ていない。

 街路樹がきれいな花を咲かしていても、人懐っこい犬とすれ違っても、鳥のかわいい囀りが聞こえようとも、感心をなくしていた。

 パトリックの手を強く握り、依存という逃げ道をベアトリスは選んだ。