ベアトリスが向かった場所。

 そこはかつてヴィンセントと過ごした物置部屋だった。

 ここの他に行く場所がなかった。

 想い出の中に救いを求める。

 そっとドアを開け、一度全体を見回してから部屋に足を踏み入れる。

 中は全く何も変わっていない。

 あのとき焦げ付いた血の痕も床にそのまま残っていた。

 ベアトリスはヴィンセントに抱かれて寝ていたことを思い出し、同じ場所に壁にもたれて腰掛けた。

 あの時の感情を思い出し、暫し現実逃避を試みるが、それが却って辛い気持ちを呼び起こさせた。

 ベアトリスの胸は切なさでキリキリとする。

 そしてその苦しみが体中にいきわたると、最後に視界がぼやけ、頬に水滴が滴り落ちた。

 ──どうしてこうなっちゃったんだろう。思いを貫くなんてできなかった。自分を変えることもできなかった。何も変えることができずに結局は逃げてる。私は 何をやってもダメなんだ。こんな私が真実を全て知りたいなんて言えた義理じゃない。

 ベアトリスはすっかり自信を失くし、また殻に閉じこもってしまった。

 立ち向かおうと自分の気持ちに正直になろうとしても、無駄だと判断してしまった。

 絶望感は簡単に入り込み、心は閉ざされ、再び固い殻に覆われていく。

 ──こんな私でもパトリックはどうしてあんなに思ってくれるのだろう。この先もっといい人が現れる可能性もあるのに、こんなに早くから結婚したいなんて、パトリックにはなんのメリットもないのに。こんなダメな私だからほっとけないんだろうか。決められた人生なんて嫌だといったけど、一人で何も出来ない私が言えるような台詞じゃなかった。人から決めてもらわなければ自ら何も出来ないくせに…… パトリックに謝らなくっちゃ。真実もどうだってよくなってきちゃった。知ったところできっと今以上に私は押しつぶされそう。もう疲れた、疲れちゃった、このまま消えてなくなってもいいくらい……

 朝早く起きすぎたためにベアトリスは睡魔という魔のつく魔物に弱気にさせられ、襲われるままに寝てしまった。