誰も居ないと思っていた、早朝の学校の廊下でベアトリスは意外な人物を目にした。

 それはポールの仮面を被ったコールだった。

「よぉ、ベアトリスじゃないか。早いんだな」

「ポールこそどうしてこんなに早いの」

「トレーニングさ。ここには体を鍛える道具が揃ってるからいつも使わせてもらってるのさ」

「だから痩せたのね。ほんと、今じゃ全くの別人だもの」

「全くの別人か。ほんとその通りさ。こいつも俺に感謝して貰わないと。まあ体を借りたお礼ってところかな。この体とももうすぐお別れだし」

「えっ?」

「いや、こっちのことこっちのこと。それより、あんた、なんか色々問題抱えてそうだな。今日も顔色悪いし、良かったら相談にのってやるぜ。ちょっとしたサー ビスってところだ」

 コールはもうすぐその日がくると思うと、高揚して調子のいいことを口走る。

「遠慮しておくわ」

「そういうなよ。これでも俺は結構千里眼だぜ。あんたの両親は車の事故で死んだことになってるんじゃないのか。そして、親同士が決めた婚約者もいる」

 ベアトリスは一瞬にしてコールの話に引き込まれた。

「どうして知ってるの?」

「その事故、ほんとに事故だったと思うかい? そしてどうして子供の時に婚約させられたかも不思議に思わないのかい?」

 目を丸くしたベアトリスの顔つきが、思ったとおりの展開で、コールは意を操ったような得意げな表情になった。

「やっぱり、あんたも疑問に思ってたんだ。俺、その理由知ってるっていったらどうする? 知りたいか?」

 得意の意地悪い顔でコールはじらした。