ベアトリスはベッドの淵に座り、目を瞑った。

 脳裏にフラッシュした鮮明な映像──ペールブロンドの長髪、美しき男性が口元を少し上げ微笑していた。

 ──この人を見たのは二度目だ。一度目のときは思いつめて歩いてるときだった。あれは幻だと思って何を見たのか訳がわからなかったけど、また思い出すなんて。

『君は真実を知りたくないのかい? 私は君の魂をいつでも自由にすることができる。私が必要になったとき、強く私のことを念じて欲しい。その時私は迎えに行く』

 ──あの時あの人が言った言葉。真実…… 真実を知る? 一体どういうことなんだろう。それって私の過去のことなんだろうか。

 ベアトリスは迷った。

 言葉を信じて念じて呼べば出てくるのかも半信半疑だった。

 だが、まずあの男の存在が何なのかがはっきりとせず、残像が残っていても信じられない。

 次から次へと自分の周りで何かが起こることに疑問ばかりが生じ、どんどん問題が膨らんでいく。

 ──あの人は一体誰? 私に一番近い存在とか言ってたような気がする。私に一番近いってどういうことなんだろう。でもあの壷を触ってどうして思い出したんだろう。それにあの水……

 水泡が膨れ上がって突然湧き出た水を思い出しはっとした。

 ──水! いつもアメリアが飲んでる水はもしかしてあの壷に入ってる水だったら。水…… あの壷には何か隠されてるんだろうか。

 真実が知りたい。

 突然好奇心に駆られて、ベアトリスは衝動的に行動を起こした。

 部屋のドアを開け、その隙間から体をかがめてそっとパトリックの様子を伺った。

 自分の家でこそこそするのは初めてでドキドキと心臓が高鳴っていた。

 しかしなぜこそこそする必要があるのかと思うと、急に馬鹿らしくなり背筋が伸びた。

 怪しまれることは何もないと思うと、堂々と部屋を出て台所に入った。

 だがすでにパトリックもあの壷も台所から姿を消していた。

 ベアトリスが壷を探しているとき、部屋の開閉の音が聞こえたので、そっと覗くように廊下を伺う。

 パトリックが自分の部屋から出てきて着替えを持ちバスルームへと入っていく様子が見えた。

 ベアトリスはまたよからぬ事を思いつく。
 ──もしかしたらあの壷をパトリックが自分の部屋に隠したのでは……

 パトリックがバスルームに入っているのをいいことに、ベアトリスはまた黙って彼の部屋にもぐりこもうとした。