ヴィンセントが教室に入るなり、ベアトリスがポールに扮したコールと話をしている姿が目に映る。

 コールはニコニコと上機嫌でベアトリスに語り掛けてい た。

 ベアトリスは半分怯え、半分気を遣い、体は逃げ腰になりながらも当たり障りのないように相手をしている。

 意地悪されないための必死の攻防策だった。

「まだ俺のこと恐れてるのか。意地悪してすまなかった。謝るから許して欲しい。どうすれば君と仲良くなれるんだい?」

「えっ、私と仲良くなりたい? どうして」

「だって、君、結構かわいいのに、いつも一人だろう。なんだか守ってあげたくなっちまったんだ。それに俺にはとっても魅力的なんだ。君が光輝いて見えるよ」

 口ではロマンティックに囁いても、コールの目は威圧するようなギラギラした目つきをしていた。

 ベアトリスは圧迫感を感じのけぞる。

「いえ、あの結構です。一人でも大丈夫ですから」

「おっと、また怖がらしちまったのか。どうすれば君に好かれるんだろう。もう無理やりうばっちまうしかないか。ハハハハ」

 ベアトリスは強引なコールの台詞に身を引いていた。

 ヴィンセントはベアトリスの側に行って助けてやりたかったが、近寄れないことに苛立ちを感じ、震えていた手から黒いけむりと青白い光がビリビリとスパークしだした。

 ふと斜め横を見るとアンバーが同じような感情を抱いてわなわなと怒りを押さえているのが目に入った。

 ヴィンセントはもしやと思い、すくっと立ってアンバーに近づき腕を取って、ベアトリスの前まで詰め寄った。

「えっ、ヴィンセント? どうして私の腕をもってるの」

 アンバーは引っ張られるまま、コールとベアトリスの前に立たされたが、訳が分かってなかったので困惑していた。

 コールもベアトリスも突然現れたヴィンセントとアンバーにぽかんとしてしまった。 

「なんだお前ら。しつこいアンバーはともかく、なんでヴィンセントが平然として来るんだよ」

 コールは近寄れない理由を知ってるだけに首を傾げていた。

 しかし、まだベアトリスのシールドの詳しい作用まではわかってないようだった。

 ヴィンセントはアンバーの抱く感情を利用したわけだが、サラのネガティブな思いに比べ、アンバーの感情は少し軽い嫉妬程度で弱かった。

 ベアトリスの前まで来たものの、これでは弱すぎて長居はできそうにない。

 アンバーのネガティブな感情を期待していたが、少し計算が狂った。

 ベアトリスはヴィンセントを寂しげに少し見つめて目を伏せた。

 本当は好きなのに、無理に抑えこもうとしている。

 膝の上でぎゅっと握りこぶしを作って力を入れていた。

「ポール、彼女が嫌がってるだろ、ちょっかい出すのはやめろよ」

 ヴィンセントは平常心を装うがベアトリスのシールドの影響で体に力が入って、ドスをきかした声になってしまった。

「なんだ、お前、俺を脅してるのか。喧嘩売ってるんなら、喜んで受けて立つぜ」

「やめてよ! ただポールと喋ってただけじゃない。少し怖い感情はあったけど、いつも一人だから話しかけてくれて本当は嬉しかった」

 ベアトリスは揉め事を避けるために無理をして言ったが、その言葉はヴィンセントにとってガラスが割られるような破壊力があった。

 ベアトリスを好きで一人にしてるんじゃないと、近寄れない悔しさが歯を食いしばらせた。

「と、言うわけだ、ヴィンセント。俺たち友達になったってことだ。邪魔するなよな」

 コールがいい気味だと笑っていた。

 ヴィンセントは言葉を無くし、気まずかった。

 しかしちょうど先生が現れたことで自分の席に戻るきっかけができ、おめおめと戻っていく。

 ベアトリスをチラリと振り返ると、彼女は下を向いたままだった。

 ヴィンセントとベアトリスは両思いであってもすれ違う。

 全てを受け入れようとベアトリスが心を開いても、真実の重みが深くヴィンセントは恐れて一歩踏み込めない。

 中途半端に近寄れば二人の間の溝がどんどん深まるばかりだった。

 そしてその溝も埋められないほどまで大きくなっていた。

 アンバーは一体何が起こったかわからないまま、困惑しながら自分の席に着いては、ヴィンセントとベアトリスを交互に見ていた。

 コールだけはヴィンセントの惨めな気持ちが面白くてたまらない。

 そして側にもうすぐ手に入るホワイトライトがいると思うと、愉快になり大きな声で笑いそうになるのを腹を抱えて前のめりになり必死で堪えていた。