「ああ、言われなくともいつも目を光らせてるよ」

 ヴィンセントがもう話すことはないと校舎に向かおうとしたとき、パトリックが呼び止めた。

「ヴィンセント、一つ聞きたいんだが、プロムには参加するつもりなのか?」

「お前には関係ないだろう」

「それが、関係あるんだよ。僕も誘われたからね。誰だかは言わなくてもわかるよな」

「やっぱりベアトリスと参加ということか。どうせお情けで自分から誘ってくれって頼んだんだろう」

「そんなことはどうでもいいんだ。知りたいのはお前が参加するのかどうかだ」

 パトリックは意地悪く口元を片方上げて聞いた。

「ああ、一応参加することにした(ある計画のためにな)」

 ヴィンセントも受けて立つように答えた。

「そっか、参加するのか。それを聞いて安心した」

「ん? なんのことだ」

「いや、こっちのこと。そうそうもう一つ面白い話をしてやろう。アメリアが僕とベアトリスとの結婚を認めてくれたよ」

 ヴィンセントの顔色が青いインクをかけられたぐらいに、一瞬にして真っ青になった。

 一生懸命落ち着こうとして、反論の言葉を探す。

「だが、本人は納得してないはずだ。保護者同士が認めたぐらいで結婚なんてできるわけがない」

「さあ、どうかね。とにかくプロムで会おう。ああ、プロムが楽しみだな」

 パトリックはわざとらしい笑みを最後に見せてヴィンセントの前から去った。

 ヴィンセントはパトリックの後姿を焦げ付くくらい睨んでいる。

 サラから持ちかけられた策にもう躊躇いはなかった。

 最後の賭けとでもいうべき、強く勝負に出ることを決意した。