「おい、ポール、何をしてるんだ。やめろ」

「やっとヴィンセントのお出ましだ。やっぱり来たか、でも現れるのが遅いんだよ」

 コールが振り向いたとき、ヴィンセントは息を荒くして、必死に力を込めて前かがみに立っていた。

「ん? お前、どうしたんだ? なんか苦しそうだな。 昼飯悪いものでも食ったのか?」

「いいから、早く彼女から離れろ。一体何を考えてるんだ。最近のお前は異常すぎる」

 ──ヴィンセントやっぱり苦しそう。

 ベアトリスが自分の仮説が正しいと思ったときだった。

 校舎の角からサラ、グレイス、レベッカ、ケイトが現れた。

 四人は目の前の光景を不思議そうに見ていたが、そのうちサラがはっとして、すぐにヴィンセントの側に駆け寄った。

 ヴィンセントはその瞬間背筋が伸び、そしてサラを驚きの表情で見ていた。

 驚いて見ているのはヴィンセントだけではなかった。

 グレイス、レベッカ、ケイトも気がついていた。

 サラは自虐するように情けない引き攣った笑顔をみせ、首を一度縦に振った。

「ちぇっ、邪魔が入った。これから面白くなるところだったのに。まあ、いっか」

 人が集まってやり難くなり、コールは諦めてその場を去っていった。

 サラはヴィンセントの腕を引っ張り、ベアトリスに近づいた。

 ヴィンセントはつまずきそうになりながらベアトリスの側までやってきた。

 ヴィンセントがなんの障害もなく自分の側に来たことに対しベアトリスは驚いている。

 グレイス、レベッカ、ケイトは離れたところからただ突っ立って三人の成り行きを見ていた。

「ベアトリス、事故にあったそうだけど、もう大丈夫なの?」

 サラが聞くと、ベアトリスは頷いた。

 ヴィンセントも何か言えと、サラはひじで突く。

「その、ベアトリスが無事でよかったよ」

「ヴィンセント、あの、変なこと聞くけど、苦しくないの?」

 ベアトリスは久しぶりにヴィンセントと近くで会えたのに、口から出たのは自分の仮説の確認だった。

「なっ、なんでそんなこと聞くんだい?」

 二人の会話にサラはベアトリスが何かに気がついていたと察した。

「あっ、そうだ、ヴィンセント、ちょっと話があるんだけど、付き合ってもらえないかな。別に構わないでしょ、ベアトリス」

 サラの言葉にベアトリスは頷くことしかできなかった。

 ヴィンセントもこの時サラについていくしか選択はない。

 未練が残るようにヴィンセントは何度も振り向き、そして二人はベアトリスの視界から消えた。

 困惑しているベアトリスをなんとかしようと、グレイス、レベッカ、ケイトが走り寄った。

 三人は気を遣って話をするが、ベアトリスはすっかり上の空だった。

 その様子をみて、三人も苦笑いせざるを得なかった。

 サラが抱いた感情とヴィンセントへの接触、そしてこの先一体どうなるのかと思うと、気が気でなくなった。