気がついたとき、ベアトリスは来賓客用の部屋の黒皮のソファーで横になっていた。

 扱いに困って、適当にそこで寝かされていたようだった。

 はっとして体を起こし、ソファーに座りなおした。

「あら、気がついたみたいね。大丈夫? どうする、このまま早退する?それとも授業に戻る? といってももうお昼前だけどね。ランチが先かしら」

 スクールナースだった。

 たおやかな笑顔をベアトリスに向け、隣に腰掛けた。

 さりげなくベアトリスの腕を取り、脈を計っては、健康状態を気にしてくれている。

 放心状態のベアトリスに、満面の笑みを添えて色々と体調について質問していた。

 質問に答えるまでもなく体調は悪くないと自分でもわかっていた。

 そんなことよりもただ気になったことは一つ。

 ヴィンセントはどうなったの? ヴィンセントはどこ?

 突然、取り乱すベアトリスに、落ち着いてとスクールナースが背中を優しく撫でた。

「何も恥ずかしがることないのよ。気を失ったのはあなただけだったけど、誰しも状況によってはパニックになるものよ。火災報知器の誤作動とはいえ、あの危険を知らせる音は、人間誰しも恐怖感を植え付けられるわ」

 スクールナースのずれた答えが返ってくると、ベアトリスはうんざりしてしまった。

 すくっと立ち上がり、丁寧にお礼を言うや否や廊下を走って教室に向かった。

 ヴィンセントの無事を確認したい。それだけで頭が一杯だった。

 教室のドアを勢い良く開けると、ベアトリスの登場に失笑が洩れた。

 誤作動で気絶したことがクラスの笑いの種になっていた。

 そんなことはどうでもよかった。

 気になるのはヴィンセントのこと。

 ベアトリスが心配して視線を向けるも、彼は何事もなかったかのように席について、しかも周りと一緒に静かに笑っている。

 あまりのショックにベアトリスは無表情で、ただヴィンセントを見つめる。

 ヴィンセントは決して目を合わすことはなかった。