パトリックは腕時計を睨んでいた。

 いたずらに時間だけが進む。タイムリミットがある待ち時間は、時間の経つのが早く感じる。

 一時間、また一時間と無常に経つ度、早送りになってるかさえ思えた。

 かなりの時間が経っているのに、あっという間の感覚でしかなかった。

 残り時間が減るたび、絶望感が心一杯に広がっていく。

 信じなくてはいけないのに、時間は無駄だと語りかけられてる気分だった。

「日没まであと3時間あまり。一体、ヴィンセントは何をしてるんだ。遅すぎる。ピクリとも動かない」

 息苦しくなり、何度も深く息を吸って吐いていた。

「まさか、記憶の闇に捕まってるんじゃ」

 アメリアはその線が濃いとばかり、顔を歪めた。

「どういうことですか」

「二人は同じ記憶を持っている。意識を共有しているとき、それが重なり合うと、記憶の闇はその場面を映し出す。そしてその記憶がヴィンセントの心を捉えてしまうと、のめりこんで目的を忘れてしまうの。それが意識に飲み込まれるってことなの」

「そんな…… 」

「困ったことになったわ。ヴィンセントが気づかない限り、どうする術もない」

「ヴィンセント! しっかりしろ。お前の目的はベアトリスをつれてくることだろうが。過去の記憶なんかに囚われるな!」

「無駄よ、ヴィンセントには何一つこちらからの声は聞こえないわ」

「それじゃ、一体どうすれば」

「ヴィンセントを信じるしかないわ。彼ならきっと気づいてくれる」

 二人の心配をよそに、ヴィンセントは目的を忘れ、ベアトリスの意識の中で様々な過去の記憶を没頭するように辿っていた。

 そして時間は刻々と進み、太陽は徐々に沈んで行こうとしていた──。