「あの時、ヴィンセントが別人に見えたんだ。だけど……」

 はっとすると同時に、ヴィンセントが突然我を忘れてベアトリスに近づいたあの瞬間、慌てることもなく、怖がることもなく、ベアトリスの心はどうすべきかもうすでに答えを知っていたと気がついた。

「私、あの時逃げないって、ヴィンセントはいつだって私の知ってるヴィンセントなんだって、自ら飛び込んだんだ。あのとき心がそうさせた。自分でも不思議なくらい落ち着いた感情が押し寄せて、胸がとても熱くなって、そして私はヴィンセントの全てを受け入れた。なぜだか説明はできない。でも心はどうすべきかすでに判っていた」

 ベアトリスは胸に手を当てる。

 頭で考えなくとも、その時真実が目の前に現れれば、自分の心は答えを出す。

 だからその真実を必ず見つけなければならない。

 ヴィンセントは正体を隠さなければならない何かを抱えていると思うと共に、救えるのは自分しかいないという感情がどこからか無意識に芽生えていた。

 その気持ちが芽生えると同時に、ベアトリスは難問に答えて正解を得たような表情になっていた。

 テレビのリモコンの電源を切る指に力が入る。

 テレビの画面が消えたとき心の迷いも一緒に吹き飛んでいた。

「言葉では説明できない。だけど心は知っている。そう、私の心はどうすべきか判っている」

 その思いはどうすべきか導きを示すように、ベアトリスの表情を明るくした。

 弾むようにソファーから立ち上がり、更なるリフレッシュ を求めてベアトリスはお風呂に入ろうとバスルームに向かった。

 夜は更けて行く。

 静かな闇の中、全てのものが眠りにつこうとしているとき、風が急に吹きだした。

 この日はまだこれで終わりではないと何者かの登場を待ち構えていた。