ベアトリスはソファーに一人残され、テレビのリモコンをいじって、観たい番組があるわけでもないのに、チャンネルをため息混じりに次々変えていた。

 チャンネルを変えるのと同じように、心も一定のものを映し出す安定感がなかった。

 ミステリー番組が映し出されると、そのとき手元が止まった。

 説明がつかない超常現象が、人々の体験を通じて再現されている番組だった。

 ある程度誇張されているが、それが嘘だと決め付けられない。

 本来なら誰にも信じてもらえない話。

 だけどこの時、ベアトリスはミステリー番組が自分のドキュメンタリーに見えてしまった。

 暗闇の中で人間じゃない何かに追いかけられて襲われるシーン。それがあの時の事と重なる。

「私はあの時、襲われそうになった。それをあの野獣が助けてくれた。あれがもしヴィンセントだとしたら、私はその事実を確かめたときどうしたいのだろう」

 独り言を呟けば、パトリックの質問が頭でこだまする。

『もし真実を知ったとき君はその相手を変わらず好きでいられるのかい?』

 ベアトリスは目を瞑り、ヴィンセントの顔を思い描いていた。

 笑顔、クールな瞳、ドキッとさせられたウィンク、真剣な面持ち。

 色々と彼の表情が浮かぶ。

 そして突然浮かんだヴィンセントの恐ろしい表情──。

 物置部屋で二人で過ごしたときにヴィンセントが見せたあの獲物を捕らえるような何かにとり憑いた目を思い出すと、ベアトリスの胸は突然スイッチを入れられたようにざわめいた。