ベアトリスが一人の時は嫌悪感を露骨に表し、ジェニファーとヴィンセントが一緒のときは、見事に180度変わって、こんな態度はとらないのである。

 なぜコロコロと態度が変わるのかというと、ジェニファーが居ないと、ヴィンセントもベアトリスには近づかないため、利用するメリットが全くなくなるからだった。

 ジェニファーが側にいるから、ベアトリスはまともに相手にされる訳であり、そのバランスが崩れれば、アンバーのような表面だけの付き合いの人間は敵意を表す。

 今に始まったことじゃなく、ベアトリスには慣れっこだった。

 ジェニファーが側に居ない時は、仕方がないとあっさりと受け入れていた。

 ヴィンセントもジェニファーが側に居なければ自分と一緒にいる理由はない。

 だから、ジェニファーが休みの時はヴィンセントも休む事が度々あり、二人が休むと学校をサボってデートと噂されてしまうこともあった。

 ヴィンセントとベアトリスが二人っきりになることは一度もなく、ジェニファーが居ない時は一人ぼっちになるのを割り切っていた。

 しかし、この日は違った──。

「ベアトリス、その髪型ユニークだね。でも僕は嫌いじゃないよ。自然な野生児って感じで好きだな」

 耳に心地いい声が響く。

「ヴィンセント! お、お、お、おはよう」

 ジェニファーが側に居ないのに、ヴィンセントがやってきた。

 いつになく嬉しそうに笑っている。

 いや、おかしくてたまらない様子と言った方がいい。

 ケラケラ笑うヴィンセントにベアトリスははっとして髪を両手で押さえた。

 一体自分はどんな髪型をしているんだろう。

「ごめんごめん、君の髪を笑ってるわけじゃないんだ。今日は僕すごく気分がいいんだ。なんていうんだろう。ずっと願ってたことが叶ったっていうか、その……とにかく、こんな気分のいい日は思いっきり笑ったっていいだろう」

 爽やかに笑うヴィンセントの笑顔。

 これが自分に向けられたものだと思うと、ベアトリスはドキドキせずにはいられない。

 頬が薄っすらと赤くなった。

 しかし次の瞬間、さらに真っ赤にならざるを得なくなった。

「グルルルルルル」

 ベアトリスの腹の虫が露骨に騒いでしまった。