ベアトリスは、締め付けられるその腕に咄嗟に体の力が入ったが、恐怖に怯え震えているのは抱きついている腕の方だとわかると、抵抗せずに自分の体にもたせかけた。

「ちょっとどうしたの、パトリック」

「一人でこんな暗くなるまで外にいるなよ。心配するじゃないか」

「ちょっと大げさに心配しすぎだよ。でも早く帰らなかった私が悪いんだけど……」

 ベアトリスはその理由がパトリックにあると思うと、体を捩じらせてパトリックの腕から離れようとした。

 パトリックはお構いなしにさらにきつく抱きしめた。

「ちょっと、苦しいって。どうしたの? 何かに怯えている子供みたい」

 ベアトリスの言葉にはっとしてパトリックは一瞬にして手を離した。

「ごめん。ちょっと疲れてた。つい君に甘えてしまった」

 表情が暗かったのはこの暗闇のせいだけではなかった。

 いつものおどけたパトリックの前向きな明るさが言葉から感じられなかった。

「パトリック、その…… さっきもそうだけど体の調子は大丈夫?お腹が痛いとかもうない?」

「あっ、そ、それはもう大丈夫。でも今日は朝から君に会えて興奮しすぎて突っ走りすぎて疲れたよ。とにかく帰ろうか」

 二人は肩を並べて歩く。

 ベアトリスは時折パトリックの表情を見ては何かを思いつめてる感じを受けた。

 一人で背負おうとする責任感みたいなものが伝わってくる。

 パトリックが視線を感じ、ベアトリスを優しい眼差しで見つめると、精一杯の微笑みを浮かべた。

 それがベアトリスには重荷となった。

 素直に微笑を返せず、つい下を向いてしまった。

 そのまま家に着くまで二人は一言も話さなかった。