ヴィンセントは自分の部屋に入ると、ベッドの上に横になり、天井を見つめる。

 脱ぎっぱなしのシャツ、片付けられることなく無造作に積み上げられた本や雑誌が床に散らばっている。

 部屋もヴィンセントの心と同様に整理整頓されていなかった。

『一番の原因は誰にあると思っている』

 先ほどのリチャードの言葉を思いだす。

 何が言いたいのかヴィンセントにはよく判っていた。

 漠然的に、子供の頃にベアトリスに強い力で体を抱きしめられたことを思い出す。

 その時ヴィンセントは泣きじゃくり、発狂して我を忘れる程に感情が高ぶっていた。

 側にいたリチャードすら手に負えない程、ヴィンセントの体からは爆発するくらいのエネルギーが溜め込まれていった。

「あのときベアトリスが俺を抱きしめなければ、俺は町を一つ消滅させていたかもしれない。ベアトリスが俺の心に入って全てを吸収するかのように受け止めてくれた。ベアトリスのあのときの力、あれは眠っていたホワイトライトの力。俺のせいで目覚めさせてしまった。それがなければ彼女がホワイトライトだと周りも気づくことはなかったはず。そして彼女は俺を助けるために心の深くまで入り込んできた。あの時、彼女のお陰で落ち着きを取り戻したが、それが助ける方法だったとしてもあまりにも酷過ぎる。そのまま俺は心に刻印を押されたようにもう君しか見えなくなっちまった」

 ヴィンセントがベアトリスに魅了されるきっかけとなった出来事だった。

「ベアトリスはあの時のこと思い出す日が来るだろうか」

 切ないため息がひっそりと洩れた。

 同じ頃、リチャードもまたため息を一つ吐きながら包丁を持って台所に立っていた。

「一番の原因は誰にある…… とは言ってみたものの責任は私にある。ヴィンセントにはなんの罪もない」

 リチャードは包丁を振り上げレタスに向かって振り下ろすと、すぱっと簡単に二つに割れた。

 問題もこれと同じようにあっさりと処理できればと節に願う。

「シンシア、私はどうすればいい」

 亡き妻にリチャードは救いを求めていた。