リチャードが仕事から帰宅し居間に入ると、ヴィンセントがソファーで寝ている姿に目がいった。

 向こう見ずで無茶をし、反抗的だが、リチャードの瞳に映るヴィンセントは愛しい息子に他ならなかった。

 暫く無防備に寝ているヴィンセントの寝顔を父親として眺める。

 赤ん坊の時の寝顔も、大きくなったこのときの寝顔も普遍的なものだった。

 前日に学校を崩壊させたことで、叱り飛ばし殴っても、我が子の寝顔を見るときほど自分の子供として愛情がこみ上げてくるものはなかった。

「なんだよ、親父。気持ち悪いな、ジロジロ見んなよ」

 ヴィンセントは大きな欠伸をしながらむくっとソファーから起き上がり、髪をかきあげた。

「なんだ起きてたのか。今日は学校も休みで何してたんだ。まさかベアトリスのところへはいってないだろうな。約束は覚えてるだろうな」

「判ってるくせに、嫌味言わないでくれ。あんたの縄張りにダークライトの反応があったんだろ。それが俺だっていいたいんだろう。俺しかそこへ入れないからな。はいはい、言い訳はしません。そこへ行ってました。でもベアトリスには会ってないよ。昨日の事件の後のことが気になったからちょっと様子を見に行ってしまっただけだ。それぐらい許されるだろ。あっ、それからパトリックの野郎が来てた。奴とは挨拶を偶然交わしたよ」

「そっか。あの子もやってきたのか。確かベアトリスの婚約者だったな」

 約束を守りきれないヴィンセントの仕返しに、リチャードは意地悪っぽく言った。

 ヴィンセントは、こっそりと様子を見に行ったことで反省する態度を見せようと思ったが、聞きたくない言葉につい反発してしまう。

「親同士の利益のために利用されただけだろ。そんなことするからベアトリスの親たちも……」

「ヴィンセント、それ以上言うな。一番の原因は誰にあると思ってる」

「……」

 ヴィンセントは口を一文字にして目を閉じた。

「今日のことはもういい。あんな事件があったからお前も心配してたし、例外と認めよう。これで気が済んだだろう。さっ、夕飯作るか。腹減っただろ」

 リチャードは背広の上着を脱いで準備をしようとした。

「折角だがいらない。勝手に一人で食ってくれ」

 ヴィンセントはしおらしい声で答えると、物悲しく背中を丸め、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 リチャードも息子の落ち込みに気の利いた声もかけてやれず、黙って後姿を憐憫の目で見ていた。

 テレビから笑い声が聞こえる。

 自分に関係ないただの音に過ぎないのに、父親として何もできずに、あざ笑われてる気分になっていった。

 電源を消そうと、床に落ちているリモコンに手を伸ばし、拾おうと前かがみになったとき、中古車の情報誌も一緒に見つけた。

 先にそれを手に取り、パラパラと中をみる。

 無言でそれをテーブルに置き、リモコンを拾ってテレビを消して台所に入っていく。
 
 そして冷蔵庫を開けて、色々な思いを抱きながら中を覗いた。