「ベアトリス、早く帰ろう。もたもたしてたらアメリアに怒られる」

 パトリックはベアトリスの体を後ろから隠し、荷物を一杯持った両手でなんとか肩を支えながら、早足で車に向かう。

「んもう、今頃なんなのよ」

 ベアトリスは呆れてパトリックの顔を見るが、その横顔は青白く汗が噴出しているのに気がついた。

「パトリック、どうかしたの。なんだか顔色が悪いわよ」

「いや、なんでもない。とにかく早く車に乗って」

 必死になるパトリックの姿にベアトリスは首を傾げた。

 二人は車に乗り込むと、パトリックはダークライトから離れようと急いで駐車場を抜け出そうとする。

 遠くの方でダークライトの二人の様子が見える。

 入り口のドアに向かって何かをしているようだった。

 ──ここにはもう来ない方がいいな。

「ねぇ、パトリックどうしたのよ。ちゃんと話してよ。なんか隠してるみたい」

 何かがおかしい。

 ベアトリスはここで真相を聞きださねばと決意したばかりの気持ちを試そうとしていた。

 パトリックがおかしな行動をするには絶対理由がある。

 そう思うことから何かがわかるかもしれないと、意気込んだ。

 パトリックもベアトリスの意図に気がついたのか、機転を利かし、苦しそうな声を発した。

「ネイチャーコールズ……」

「えっ! あっ、そ、そうなの。運転大丈夫?」

 ネイチャーコールズ。

 遠まわしに『尿意や便意を催した』という表現だが、この場合どうしても後者だと思われたに違いない。

 ベアトリスも聞いてはいけないことを聞いたみたいで、少し戸惑い、その後家に着くまで黙っていた。

 パトリックもこの場は仕方なく、切り抜けるために、最後まで演技をする羽目になった。

 家に入ると、仕方なくバスルームに飛び込んでいった。

 咄嗟のごまかしとはいえ、好きな人の前ではかっこ悪く、便器の上に座りうなだれる。

「おっと、忘れちゃいけない最後の仕上げだ」

 パトリックはトイレのレバーを引いて水を流した。

 これで何もかも終わって欲しいと流れる水の音を暫く聞いていたが、ダークライトの二人のことを思い出すと不安までは一緒に流れてくれそうもなかった。

 あのときの焦りを思い出すとまだ冷や汗が出て動悸がする。

 暫くパトリックはバスルームから出られなかった。