パトリックと別れたあの後、ヴィンセントはやるせない思いを抱いて、バスに揺られていた。

 重苦しいため息が、汚れた煙のように噴出している。

 大いに不満を感じていた。

 感情の乱れとバスの揺れがムカつかせて、気分も最高に悪かった。

 パトリックがベアトリスの側にいる。

 好きなときに話せて、好きなときに触れることもできる。

 ヴィンセントがどんなに側にいたところで、シールドのせいで自由に話すことも、触れることもできなかった。

 たった一度のチャンスも、自分が暴走したために大半を寝てしまったという失態。

 さらにベアトリスの側にいられるためのジェニファーという道具も失ってしまった。

「そして最後は思いを断つか…… 約束させられたとはいえ、俺がそんなことできる訳がない」

 ヴィンセントはボソッと独り言を呟くが、心の底から情けなく自己嫌悪に陥った。

 歯をキリキリと噛みしめては必死で感情を殺そうと耐える。

 こういうときに限って、頭の中にパトリックがベアトリスの肩を抱き寄せる姿を想像してしまい、泥のように濁る嫉妬に襲われた。

 全てが自分で引き起こしてしまったと自業自得でありながら、悔やみ苦悩する。

 嵐が吹き荒れるような感情が体内で渦巻いたときだった。

 バスが突然止まってしまった。

 バスの運転手が立ち上がり乗客に向かって一言言った。

「オーバーヒート!」

 ヴィンセントはまたはっとした。

 自分のせいなのか、それとも偶然なのか、無意識に後者を強く願っていた。