朝、ベアトリスは自分の部屋のベッドで目が覚めた。

 頭が働かず、寝ぼけてベッドから起き上がれない。

 カーテンの隙間から陽光が差し込み、いつもの朝なのに、この日は何かが違う。

 そう思った時、頭の一部分が熱を持つようにズキンと疼いていることに気が付いた。

 そっと触れれば、盛り上がっているように感じ、さらに強く押さえ込めば痛さが増した。

 頭がすぐに働かないせいで、暫く目をショボショボさせて、頭をさすっていた。

 昨晩の事を思い出そうとしたその時、 突然炎に包まれたアメリアの映像がフラッシュした。

「あっ!」

 布団を跳ね除け、部屋を飛び出る。

 「アメリア、アメリア」と半狂乱に叫びちらしていると、居間から落ち着いた声が聞こえた。

 スーツに身をまとったアメリアが、ソファーに座ってコーヒーを片手に新聞を読んでいた。

 それはいつもの朝の光景の一つではあるが、ベアトリスには違和感だった。

「何、そんなに朝から騒いでるの。早く支度しないと学校に遅れるわよ」

「アメリア、水、水が燃えて……」

「何、寝ぼけてるの。変な夢でもみたの? 早くシャワー浴びて目を覚まさせなさい」

「夢? 夢を見た? あれが夢?」

 ぼけっと立ってるベアトリスにアメリアは新聞から目を離さず、人差し指だけ壁に掛かった時計に向けた。

 その時計の針が指す時間は、ベアトリスを現実へと簡単に引き戻した。

 それと同時に、ベアトリスがバタバタと慌しくバスルームへ駆け込んだ。

 暫くして家全体にシャワーを出す水の音が響き渡った。

 アメリアはそのシャワーの音を聞き、何もかも洗い流してくれることを期待した。

 バスルームに火が持ち込まれなかったことが不幸中の幸いだったと、再び胸をなでおろすのだった。

「もう少しでバスルームが火の海になるところだったわ」

 アメリアはソファーから立ち上がる。

 真相を聞きたがるベアトリスとこれ以上顔を合わせない方がいいと、ここはさっさと家を出ることにした。

 夢で片付けば、何もかも上手くいくし、前日の事を誤魔化すにはもってこいだった。

 時間が経てば経つほどベアトリスも夢と現実の境目があやふやになっていくことを見込んで、アメリアは仕事に向かった。

 またいつもと変わらない日常にしなければならない。

 だが、炎によって燃え尽きてしまったことでいつになく体がだるく、前日の思いがけない事故を引き起こした主犯者を恨んだ。

 アメリアには事の真相の全てが分かっていた。