パトリックがまた何かを企んでると思い込んだベアトリスは、その手には乗るかと怖い形相で振り返った。

「いい加減にして…… ん?」

 そこにはおどおどとしたグレイスがいた。

「ご、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんです」

「ち、違うのよ。あの、他の人と間違えてその、グレイスだとは全くわからなくって」

 ベアトリスは慌てふためいた。

「そ、そうですか。誰かと待ち合わせですか?」

「待ち合わせというより、そのはぐれちゃって、今探してたの。ごめんね、怖がらせて」

「いえ、私こそ。でもここでベアトリスに会えて嬉しいです。よかったらそのお友達も交えて一緒にお茶でもどうですか。いつものメンバーがあっちに揃ってますけど」

 グレイスははにかんだ笑顔を見せて一生懸命誘ってきた。

 心を開いて接しているのがベアトリスには伝わった。

 その気持ちは有難く素直に嬉しかったが、パトリックをこの子たちの前で紹介するのは避けたく、守りの姿勢に入った。

 遠慮しようと断る文句を考えているときだった。

「よぉ、やっと追いついた。僕を放っていくなんて酷いじゃないか」

 最悪のタイミングでパトリックが現れた。ベアトリスは失敗でもやってしまったかのように片手で顔を抑えた。

「あっ、あなたは」

 グレイスが目を見開いて驚き、両手で口を押さえている。

 パトリックはグレイスを見ると、同じディムライトであることに警戒心が強まった。

 ホワイトライトを目の前に、親しくないディムライトと顔を合わせると無意識に張り合う体制となってしまうらしい。

「やあ、君とはどこかで会ったことがあるね。そうあのイベントがあったときだったね。ベアトリスと友達だったのかい」

 落ち着いた物腰柔らかい言い方でも目つきは厳しかった。

「えっ? グレイスと知り合いなの? イベントって何?」

 ベアトリスは意外な展開に驚いていた。

「ああ、スペリング大会(単語の綴りをどれだけ知ってるか競う催しの事)みたいなものだよ。能力を競って誰が一番優れているか決める大会のことさ。そこで昔会ったのを覚えてたんだ。この子もかなりいい成績だったからね」

 パトリックは若いディムライト同士が競う大会のことを意味していた。

 誰が一番優れているか、頭脳、力を競う大会。

 ホワイトライトたちにアピールできると考え、ライトソルーションをより多く手にするための手段の一つとして、ディムライトたちには認識されている。

 優れたディムライトたちはホワイトライトも優遇するため、力の見せ所として定期的に催しが開催されていた。

 パトリックが護身用の特別な装置を持ってるのも、こういう大会で努力して手に入れた結果であった。

 またディムライト同士の情報交換や交流の場でもあり、パトリックはベアトリスを探し出すために何か情報を得ようと、そういう場所には積極的に参加していた。

 グレイスはすっかり怖がってしまい挙動不審になっていた。

 パトリックに、ベアトリスの存在を隠してたと誤解をされているのが、彼の目の表情からとれた。

 以前会ったときに、子供の頃のベアトリスの写真を見せられ尋ねられたことがあった。

 その時にベアトリスがホワイトライトだということと、パトリックの婚約者だということを知った。

 もちろん側には残りの三人もいた。