元々金持ちではあったが、仕事を持って自分で稼いでるのならベアトリスも文句もいえない。

 ベアトリスはパトリックのしたいように任せ、暫く従って着いて行っていたが、買い物は中々終わりそうにもなかった。

「ねぇ、まだ服買うの?」

 ショッピングバッグは両手一杯に増えていた。

「うん、着替えあんまりもってこなかったから、それにかっこいい服着ないと、ベアトリスのハートをつかめないだろ」

 はいはいと、ベアトリスは無視して先を歩いた。

 そしてある店で足が止まった。そこはヴィンセントが着る服装の雰囲気がしていたからだった。

 それをじーっとみてふと廊下で拾った服の切れ端を思い出した。

 ご丁寧にしっかりとジーンズのポケットに入れていた。それを取り出して複雑な思いで眺める。

「ベアトリス、どうしたの」

 パトリックに声を掛けられ、咄嗟にまたその服の切れ端をポケットにしまった。

「あっ、ここもいい感じの服があるね。ちょっと見ていこうかな」

「ダメ!」

 ベアトリスの口から咄嗟に出た言葉は、何かを守りたいほどに威嚇するくらいの勢いだった。

「なんだよ、そんなに強く否定しなくても…… 僕に似合わないってかい? そうだな、ちょっと派手だよね。僕は落ち着いたシンプルなものが好きだからね。さすが僕の好みまですぐにわかるなんて、よく僕のことみてくれてるんだ」

 ベアトリスは心苦しかった。

 本当の理由など言えない。

 それなのにパトリックはいつも前向きな答え方を返してくる。

 ヴィンセントのことを考えるとパトリックと一緒にいることが辛くなってくる。

 心の寂しさを補うためにパトリックを利用している気さえしてきた。

 ただの幼なじみで友達と線分けしていても、認めてなくとも形式上は婚約者でもある。

 そして何より、パトリックと一緒に居ることが嫌じゃなかった。

 強引で必要以上に前向きだが、優しくていつも自分のことを考えてくれて守ってくれる。

 ベアトリスはパトリックに流されていくのが怖くなってしまった。

 だが、繋ぎとめるためのロープがどこにも引っかからない。

 心の迷い──。

 ベアトリスは衝動にかられ突然早足でその店の前を過ぎ去った。

「ベアトリス、ちょっと待ってよ」

 パトリックは追いかけようとしたが、前から来ていた人とぶつかってしまった。

 謝っている間にベアトリスは人ごみに紛れてかなり先を歩いていってしまった。

「んもう、参ったな。まっ、いっか。迷子になるってこともないな。方向はこっちだし、僕の姿が見えなくなったらベアトリスも気になって探してくれることだろう」

 パトリックは落ち着いてまた自分のショッピングを楽しんだ。

 そしてチョコレートショップを見つけるとそこに入っていった。

 我に返ってふと後ろを振り返ると、パトリックがいないことに今度はベアトリスが気がついた。その場で突っ立って、辺りをキョロキョロする。

 そして後ろから突然肩を叩かれた。