この慌てぶりに気が付かないアメリアではなかった。何事かとすぐに駆けつけ、青白い炎を見るや否や血相を変えた。

「ベアトリス、すぐに離しなさい」

 炎は紙を燃やし尽くそうとベアトリスの持ってる指先に近づいてきた。

 それでも捨てられない。

「でも、そしたら床が燃えちゃう。バスルーム、バスルーム、水、水」

 慌て躊躇うベアトリスが水を求めてバスルームに入ろうとしたときだった。

「バスルームはダメ!」

 アメリアが咄嗟に叫んだ。

「えっ?」

 ベアトリスはアメリアの突然の強い叫びに気が動転になりながら、足をバタバタさせ右往左往していると、アメリアがフットボールの選手のようにタックルしてその炎の紙を奪い去った。

 もみ消そうと炎を直接両手で掴む。

「キャー、アメリア、何してるの。とにかく水、水、水!」

 深く理由も考えず、バスルームがだめならキッチンしかないと水を求めてあたふた向かった。

 キッチンカウンターにはピッチャーに入った水がちょうど置いてあった。

 ほんのちょっと前にアメリアがこのピッチャーから水を飲んでいたものだった。

 迷わずそれを掴みアメリアの元へベアトリスは走った。

 その炎目掛けてバシャっとぶっかけた。

「あっ、その水は」

 アメリアは嘆くように声を発した。

 その瞬間ベアトリスの目が大きく見開いた。

 アメリアの手が勢いよく青白い炎に包まれてしまったからだ。

「どうして、さっきよりも燃え出すのよ」

 さらにその炎はアメリアの全身へ広がってしまう。

 彼女の体全体が青白く包まれた。

「アメリアが燃えてる。イヤー、誰か助けて!」

 人間火達磨を目の前にし、ベアトリスはパニックに陥り、うろたえながら助けを求めようとするも、あまりのショックで足がもつれ倒れこんだとき、運悪くそこにあった家具の縁で頭を打ってしまい気を失ってしまった。

 同時に持っていたピッチャーも手から離れて床に転がった。

 倒れこんだベアトリスの側でアメリアは平然と立ち、青い炎に包まれながらため息をついた。

 業火に燃え上がる炎の中、熱さも苦しさも感じないが、気絶しているベアトリスの姿に、アメリアの心は痛んだ。

 アメリアの体の何かを燃やしきると炎はすっと鎮火した。

 床に寝転がっているベアトリスを起こしてアメリアはギュッと抱きしめる。

 一言「ごめんね」と呟きながら。