さらりと気持ちを伝えるパトリックの言葉。

 それはいつも自然にベアトリスの心の中に入ってきては、鐘を突然鳴らすようにドキリとさせられる。

 ベアトリスはその言葉に心を縛られてパトリックを見つめてしまった。

 澄みきったブルーの瞳が愛情一杯に潤い、ベアトリスの心まで静かに届けとパトリックは見つめ返す。

 二人の距離が無意識に縮まっていった。

 ──なんて優しい目で見つめるの。本当に私しか見ていない目。

 心の奥にまで訴えてくるパトリックのその眼差しはベアトリスの視線を釘付けにする。

 パトリックの顔がどんどん目の前にせまる。

 雰囲気が二人を飲み込もうとしていた。

 部屋という密室、そして目の前に想い焦がれていた人。

 この環境でこの状況はパトリックは我を忘れそうだった。

 その寸前ではっとして、ベアトリスの頭に軽く手を乗せ、ぐしゃっと髪を掴むように撫ぜ、ニコッと笑顔を作った。

「あっ、キスすると思ったでしょう。それともして欲しかった?」

 ベアトリスは枕を掴み「バカ」と投げつけて立ち上がった。

 パトリックに掻き回されていいように遊ばれているだけなのか、それとも意図があって先の読めない行動をわざとするのか、ベアトリスは持っていきようのない気持ちを握りこぶしを作って、体に力を込めて発散させていた。

 パトリックが背後でクスクスと笑っている。

 しかし心は寂しげに、触れたら割れそうなくらいの薄いガラスの入れ物にベアトリスを思う気持ちを入れて大切に抱えていた。

 どこかで気持ちを押さえなければ、パトリックもまたヴィンセントのように暴走しそうになる。

 ──これじゃ人のこと言えないな。

 パトリックは落ち着けとばかり、大きく息を吐き出し、また荷物整理をし始めた。