客間用にしていたその部屋は、アメリアのセンスで、すでに色々と揃えられていた。

 ベッド、タンス、ちょっとした机なども置いてある。

 すぐにそこで生活できる準備はすでに整えられていた。

 パトリックは長期の旅行のために用意したかと思われるスーツケースの中身を取り出して、しまえるところに収めていく。

 机にはノートパソコンが置かれ、すぐにインターネットが出来る状態になっていた。

 ベアトリスは開きっぱなしのドアをノックした。

 パトリックは一度顔を上げたが、すぐにまた荷物整理に手を動かした。

「やあ、結構長かったね。それで探し物は見つかったのかい?」

 パトリックは少し冷たい言い方をしたが、これもまた計算した戦略だった。

 怒ったフリをすればベアトリスは落ち着かなくなり、話の主導権がパトリック側に流れるのを期待していた。

「探し物? うん、見つかったよ。一番自分に必要なものを見つけた」

 ベアトリスの落ち着いた返事はパトリックには予想外だった。

 胸騒ぎがするのか急に手元が止まった。

 何かが違う。

 急激なベアトリスの変化に不安にさせられた。

「ふーん、それで何を探してたんだい」

「自分だけの大切なものだから、それは内緒。ところでなんか怒ってる?」

 ベアトリスはパトリックの様子を落ち着いて観察する。

 何かを知っていたとしても、それを聞いたところで簡単に教える人ではないことをよく理解していた。

 これから一緒に住めば何かを聞き出すチャンスもいつかあると自分の取った行動についてあまり触れないようにした。

「いや、怒ってないよ。そっか、見つかったのならそれでいいけど」

 パトリックは自分の計算した通りの展開にならずに心が乱れていた。

 ──ベアトリスは何を考えてるんだ。

 二人は心の中で気まずい気持ちを抱き、お互い探りあいながらも、表面は何もなかったように振舞っていた。

「何か、手伝おうっか」

 ベアトリスがパトリックの側に近づき一緒にベッドに腰をかける。

 ベッドの上にあったスーツケースの中を覗きこんだ。

「大した荷物はないから、大丈夫さ」

「あれ、これ何?」

 ベアトリスがスーツケースの中に手を突っ込みそれを取り出した。