ベアトリスはゆっくりと住宅街を歩いていた。

 気がつけばいつものウォーキングコースを歩いているのと変わらなかった。

 ヴィンセントを探しきれなかったが、自分が取った行動は真実と向き合う始まりの一歩だと思えた。

 ヴィンセントもパトリックも行った、儀式のような血を見せる行為。

 偶然では片付けられない。

 自分の知らない何かが必ずそこにあるとベアトリスはそれに気が付いても、この状態では暗闇の中を手探りで見つけようとするようなものだった。

 仮説を立ててみても、落ち着けばそれを証明できる証拠など何一つないことに気がつく。

 あやふやな記憶だけを信じてみてもどうすることもできなかった。

 いつもはここで都合のいい妄想という理由をつけて終わってしまいそうになるが、今回は違う。逃げずに突き止めたいという気持ちで溢れていた。

 もしヴィンセントが人間じゃなかったとしたら──、不快な空間で怪物に襲われたときに見た野獣がヴィンセントだったとしたら──、ベアトリスはそれでも真相を突き止めたかった。

 怖いという感情はそこになく、ヴィンセントを強く思う気持ちが、真実に目を向けるように追求させる。

「これには必ず訳がある」

 そう思うことで、ベアトリスはヴィンセントと離れてしまったことに前向きになった。

 自分が突き止める努力をするという選択をベアトリスは選んだ。

 いや本当はヴィンセントを思い続けたいという理由が欲しかっただけかもしれない。

 そしてパトリックにも何かがひっかかる。

 無邪気で憎めないところがあるが、時にはそれが計算されたようでもあると気づき始めた。

 何かを隠すために真実をうもらせるための演出──。

「今まで疑うことなどなかったけど、疑問があればとことん追求。そこから何かがわかるかもしれない」

 ベアトリスはこの時、自分を変えなければと強くなることを決意した。

 背筋を伸ばし、シャキシャキと突然リズム良く歩き出す。

 ベアトリスが家に戻った頃、パトリックは空いていた部屋でベッドの上に腰をかけ、荷物を広げてごそごそしていた。