ベアトリスは玄関を飛び出し、一目散に住宅街のストリートを走っていく。

 真実を確かめたい。その思いつきだけで衝動に駆られた。

 ──あのときの人影はヴィンセント…… 

 パトリックの嘘から出た誠。

 ベアトリスが玄関を開けて辺りを見回したとき、蜂蜜色の髪をした男性が逃げるように先の角を曲がった。

 この時になってベアトリスは自分が思った直感が正しいとやっと肯定できた。

 なぜ、あのとき追いかけなかったんだろう。どうして確かめなかったんだろう。

 いつも自分から何もしようとしない。

 深く考えることもせず、なんでもすぐに諦めてしまう。

 自分で自分を信じればいつだって真相は見えてくるはずなのに。

 目の前が涙でかすむ。手でふき取りながら、それでも必死に走る。

 しかし角を曲がればもうそこにはあのとき見た人影はいなかった。

 それでも探したいと、潤んだ目で辺りをキョ ロキョロとしていた。

「ベアトリス、どうしたんだ」

 パトリックが追いついてベアトリスの腕を掴んだ。

「離して、今忙しいの」

 振り切ろうと腕を振るが、パトリックの力の方が強かった。

 彼の手はベアトリスの腕を離さない。

 素直に離せないほど心乱れていた。

「落ち着くんだ。訳を話してくれ。一体何を探してるんだ」

 自分がとった行動が何かと結び付けてしまった可能性を考えると、指先の切り口がドクドクとうずいてくる。

 まず自分が落ち着こうとパトリックは深く息をする。

 ベアトリスは、邪魔をされ鬱陶しいとばかりに、苛立ってパトリックを睨みつける。

 それでもパトリックは穏やかな表情を見せ笑っていた。

 憎めなかったパトリックの笑顔がこの時作り物に見えた。

 ベアトリスをコントロールしようとする意図された笑顔に──。