「あーあ、水道が出しっぱなしじゃないか。もったいない。お皿も片付けないと」

 パトリックはシンクの前に立ち、水道が出るレバーを下に下げた。

 そして割れた皿を片付ける。その時だった。

「痛っ」

 パトリックの指先に赤いラインが現れた。

 それをベアトリスに見せてドジな奴だと自分で笑っていた。

 ベアトリスははっとする。

 ──偶然なの、それとも故意に血を見せてるの?

「だっ、大丈夫…… 」

 ベアトリスは声をかけるものの、頭の中では血をもってそれを証とするヴィンセントが見せた行為と重ね合わせていた。

「ああ、大丈夫さ、ほんのちょっとかすっただけ。すぐ止まるさ」

 パトリックはかなり深く切っていたのか、左の人差し指から鮮明な赤い玉が現れる。

 指先でどんどん膨れ上がり、最後にはつーっと指を伝って流れていった。

 ベアトリスは無言でパトリックをバスルームまで引っ張っていった。

 トイレの蓋の上に座らせ、シンクの隣の引き出しから消毒薬を出して手当てをしてやる。

 最後に絆創膏を貼ると、パトリックは満足げに笑顔を見せていた。

「ありがとう」

 パトリックが素直に礼を言っても、ベアトリスは上の空だった。

 まだ血を見せたことについて疑念を抱いている。

 パトリックはベアトリスの態度などお構いなしにバスルームを見回していた。