ダイニングテーブルを挟んで、ベアトリスはパトリックと向かい合わせに座って昼食を食べていた。

 パトリックが腕によりをかけて作ったものだったが、ベアトリスはロボットのようにただフォークを上下に動かして口に入れていた。

 先ほどみた人影はヴィンセントに思えてならず、彼が近くにいたかもしれないと考えると心ここにあらずだった。

 だがこれも、そうであって欲しい思い込みにしか過ぎず、ヴィンセントがここに来るはずがないと強く否定した。

 希望をかすかに抱くことは、自分の心を故意につねって弄くってるようなものだった。

 学校の物置部屋でヴィンセントと一緒に過ごしたことをふと思い出す。

 あやふやな記憶。自分が自分でなかった感覚。

 しかしそれもまた、昼寝をしてしまったことでやはり夢の中の出来事なのかと、いつものごとく確証に自信がなかった。

 昼寝──。

 ヴィンセントにずっと抱かれていたことも思い出した。

 彼と体を密着していたことが、ぽわっと心が浮くように思い出される。

 そして車で送ってもらった後の別れ際の抱擁。

 あれが全て遊びで、からかいだったとはベアトリスにはなぜか思えなかった。

 その次の日なぜヴィンセントが急に変わってしまったのか──。

 フォークを持っていた手が止まる。

 不思議な数々の出来事、そしてそれぞれの謎を帯びた言葉。頭の中でぐるぐる回りだした。

 ──もしみんな嘘をついてるとしたら…… または何かを隠してるとしたら

 発想の転換だった。

 突然、持っていたフォークが手から落ち、カチャーンとお皿に当たった。