名前を呼ばれ自分のコーヒーを取りに行く。

 そのとき女子高校生の会話が耳に入った。

 何気なしに聞いているとあるキーワードが耳に引っかかった。

 コーヒーを手に取り、その女子高生達の座ってるテーブルの隣に背中を向けて座った。

「だから、さっきも言ってるけど、そろそろヴィンセントと仲直りした方がいいんじゃない。だってもうすぐプロムがやってくるわ。私達がジュニア(11年 生=日本だと高校二年生にあたる)になって初めてのダンスパーティよ。パートナーがいなくっちゃ参加できないのよ。このまま意地を張ってちゃヴィンセントも誘い難いって。ねえ、聞いてるのジェニファー」

 ジェニファーは気がかりがあるような顔をして、話している相手の顔を見ていなかった。

 コールはヴィンセントという名前に反応した。

 金曜日のこの時間、高校生がうろつくには早すぎる。

 休みになった高校と言えば、破壊されたヴィンセントが通う高校のみ。

 この女子高生二人がヴィンセントの知り合いだとすぐに感づいたのだった。

 コーヒーをすすり、テーブルの上に読み捨てられていた新聞を見るふりをして、コールは耳を尖らせた。

「ねぇ、アンバー。私とベアトリスが仲いいことをどう思ってた?」

「そりゃ、変だとは思っていたけど、ジェニファーが友達と思ってたのなら仕方ないじゃない。でも今回はやられたわね。飼い犬に手を噛まれたって感じかしら。まさかあのベアトリスがヴィンセントにちょっかいだすとはね。ヴィンセントも付き合いもあって断るに断れなかっただけなのよ。許してあげたら」

「やっぱり仲いいように見えたよね。ベアトリスも私のこと崇拝して、私に逆らうことなんて一度もなかった。私に絶対逆らえなかったはずなのに、そのベアトリスがヴィンセントと二人っきりで授業をサボるなんて。あの子達が知らせてくれなかったらごまかされるところだったわ」

「ああ、あの下級生のメガネかけた子と、もう一人はソバカスが目立ってた子ね。あの子達、わざわざジェニファーに告げ口に来るなんて驚いたけど、『ヴィンセントがベアトリスに夢中になってるの許せるんですか』って言う言い方には笑ったわ。そんなことありえないし。まあ、ベアトリスが見た目ぱっとしないだけに、ヴィンセントに憧れてる女の子達はジェニファー以外は認められないってことね」

「違うわ……」

 ジェニファーは悲しい目つきで否定する。