その間に、パトリックはノックをしてアメリアの部屋に入っていく。

 ウエイターになりきって料理を見せていた。

 アメリアがベッドから身を起こすと、それを目の前に置いた。

 そこには空っぽのグラスも添えられていた。

 パトリックはタンスの上に置かれた壷を持ち、それをグラスに向け中に入っていた水を注ぎだした。

「さあ召し上がれ」

「パトリック、あなた…… 」

「あなたの傷が癒えるまで、僕にベアトリスを任せてくれませんか。この残りの水も彼女に飲ませます。それにしても、このライトソルーションの豊富なこと。 ディムライト達が見たら目の色変えて飛びつきそう」

「ディムライトがお金よりも欲しがる水。あなた達が摂取できる量は決められてるものね。私達にはその量でも不自由分だけど、あなた達からみたらざっと十年分くらいありそうよね」

「この壷はホワイトライトの世界と繋がって、湧き水のように水が送り込まれてくるんですね。僕達は小さな杯に溜まった水滴を舐める様なもの。こんなに多くのライトソルーション見た事がない」

 パトリックはその壷を両手で持って揺らし、水の音を楽しんでいるようだった。

 そして頭の位置まで持ち上げそれを覗き込む。

 水から放たれるキラキラした光はパトリックの瞳に反射していた。

「あなたもその水が欲しいの?」

「僕がこれを欲しい? こんなもの僕にはなんの価値もありません」

「それじゃ、どうしてベアトリスと結婚したいと思うの。あなたの両親がベアトリスの両親にお金と地位を約束し、そして婚約という形を作った。いわゆるお互いの利益を考えた意味もない婚約だった。あなたも当時子供ながらそれを納得してのことだったんじゃないの」

「あなたはノンライトとホワイトライトの間に生まれし者、それでもディムライトの間ではその存在はホワイトライトと等しく誰も逆らえない。そしてあなたはディムライトを見下している。あなたのような目から見ればそう捉えられても仕方がない。それに僕はそう思われてると判っててもそれを利用した。親同士が決めた婚約は僕にも都合がよかった。僕はベアトリスの側にずっと居たかったから、ただそれだけ」

「そう、あなたも本気でベアトリスが好きってことね」

「『あなたも?』って、そっか、アイツのことか。もっと早く気づくべきだった。ベアトリスが安全に暮らせる場所を考えたらあの親子の近くだったってことか。灯台下暗しってこのことだったのか」

 パトリックは壷を持ってアメリアの部屋を出て行こうとする。

 アメリアが不安そうな顔になった。

「壊さないって。とにかくベアトリスはこれを飲まなければダークライトがわんさか押し寄せてくるんでしょう。まあ、僕に任せて。悪いようにはしないから。それよりもちゃんとそれ食べといてよ。変なプライド捨ててさ」

 パトリックは楽しそうに鼻歌交じりで部屋を出て行った。

 アメリアは食事をじっと眺めていた。

 パトリックにかき回されるのは癪だったが、何も言わなくても自分の思うことをパトリックが自ら行動してくれるのは有難かった。

 悪い奴ではないと、フォークを手に取り食事に手をつけた。そしてあの水をぐぐっと一気に飲む。

 まるで自棄酒を浴びているかのようだった。